米国農務省、支援用粉ミルク確保に向けた具体的措置を発表(米国)
米国農務省(USDA)は7月18日、「育児用調製粉乳の入手に関する法律(ABFA)(注1)」に基づき、「女性・乳児・子供のための特別栄養補給プログラム(WIC)(注2)」参加者の乳児用粉ミルク(以下「粉ミルク」という)確保に向けた具体的な対応を発表した。米国では今年2月、粉ミルクによる乳児のクロノバクター感染の確認を受け、粉ミルクメーカー大手、アボット・ラボラトリーズ社の製造工場の操業停止と製品の自主回収が行われ、その結果、全米で粉ミルク不足が生じた。その中でも粉ミルクの購入数の半数以上を占めるWIC参加者(全米約120万人の乳児)にとって、製品の確保が非常に困難であったという。
(注1)ABFA(Access to Baby Formula Act)
本年5月21日、超党派による同法案「育児用調製粉乳の入手に関する法律(ABFA)」が制定・施行。児童栄養法の一部改正を行い、州政府機関と粉ミルクメーカーとの間のリベート契約(卸業者や小売業者などの取引高に応じて、メーカーがその仕入代金の一部を払い戻すことを条件とする契約)の要件の追加、緊急時・災害時およびサプライチェーン混乱時における州機関に対する適格な管理要件の免除・緩和権限の農務長官への付与など粉ミルク供給不足に対応。
(注2)WIC (Special Supplemental Nutrition Program for Women, Infants, and Children)
妊娠中から授乳中までの低所得者層の女性、乳児、栄養上のリスクを抱える5歳までの子供の健康保護・栄養確保のために、栄養教育、母乳育児支援、保健サービス、食品クーポン券配布などの支援を行う州政府機関による補助プログラム。粉ミルクについては、州機関がメーカーとリベート契約を締結の上、当該メーカーがWIC参加者向けに販売。
1 USDAによる具体的措置
(1)自主回収時における支援用粉ミルクの確保
ABFAに基づき、州政府機関と粉ミルクメーカーとのリベート契約の条項に、粉ミルクの自主回収が生じた場合のメーカーの対応を明記することを要求する。米国農務省食料・栄養局(USDA/FNS)は、当該メーカー以外の入手可能な粉ミルクなどの取り扱いを認めること、さらに、その場合にはメーカーがリベート(割戻)を支払うことの明記を推奨している。
(2)サプライチェーンの混乱時への備え
サプライチェーンの混乱時(緊急・災害時含め)に備え、州政府機関と連携し、粉ミルクの配布を含む緊急対応計画を策定する。このほか、粉ミルクの配布計画、小売業者と州政府機関との間の粉ミルク在庫情報共有計画などの策定も支援する。
(3)WIC対応オンラインショップの立ち上げ
WIC参加者の自宅周辺の小売店で粉ミルクの供給が不足すると、製品の確保が困難となるため、WIC給付金の使用可能なオンラインショップの立ち上げに向けた試験を実施するとともに、それに要する規則を制定する。
(4)WICの競争力強化
すべてのメーカーにとって、WICに係る入札への参加が容易になるよう、州政府機関によるWICの公募専用ウェブページを開設する。
2 これまでの米政権の対応
米政権はこれまで、大統領に国内産業界を統制できる権限を与える国防生産法の発動による粉ミルク生産拡大に要する原料確保のほか、いわゆる応急処置として、輸入を含む州際通商に関する規則の柔軟な運用、粉ミルクの空輸による輸入の迅速化などにより、外国産粉ミルクの輸入を促進してきた(図)。さらに、7月15日には本年末までの粉ミルクの輸入関税を免除する粉ミルク法案が下院を通過した(6月23日に上院通過済み)。この輸入促進の方針について、米国酪農・乳業業界では粉ミルク供給の危機を緩和するために必要であると理解を示しつつも、今後の米国内の生産拡大に向けた措置を講じるべきとの声も上がっている。
【調査情報部 令和4年8月5日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部国際調査グループ)
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