米農務省、加熱用鶏肉製品のサルモネラ菌検出の規制化に向けた方針を発表(米国)
米国農務省食品安全検査局(USDA/FSIS)は8月1日、加熱用鶏肉製品のうち、パン粉をまぶしたスタッフド・チキン製品(鶏肉の中に様々な具材を詰めた製品:写真)でサルモネラ菌が検出された場合、規制の対象とする方針を発表した。
1 鶏肉製品に対するサルモネラ菌への規制強化
現時点でUSDA/FSISは、サルモネラ菌の規制基準値を1グラム当たり1CFU(コロニー形成単位)とした規制案を提示する予定としているが、より厳格かつ血清型に応じた基準など、専門的な知見を踏まえて決定することとしている。今年の秋頃にも基準値や検証試験プログラムを含む規制の制定に向けた実施計画案を発表し、パブリックコメント(意見公募)も行う予定としている。
米国疾病予防管理センター(CDC)の推計によると、サルモネラ菌感染症は年間135万件ほど発生しており、そのうち約2万6500人が入院、420人ほどが死亡しているという。また、感染のほとんどが食品を介した感染とされ、そのうち23%以上が鶏肉製品を介した感染とされている。
本方針についてヴィルサック農務長官は、「鶏肉を介するサルモネラ菌による食中毒を減らすための幅広い取り組みの第一歩である」と今後の取り組みに意欲を示した。
2 政府のサルモネラ菌感染者数低減目標
米国政府は、保健福祉省(HHS)を中心に策定した国家目標「健康な人々2030」にサルモネラ菌感染者数の低減を位置付け、2030年までに家庭内サルモネラ菌感染症患者数を約24.8%減少させる目標を立てている。
本目標の達成のため、FSISは21年10月、鶏肉製品を介するサルモネラ菌感染症の低減に向けた包括的な取り組みを行うことを発表した。食鳥処理・加工施設へのサルモネラ菌の侵入低減策や定量的検査方法を確立すべく、鶏肉業界、専門家、消費者団体などの関係者と議論・協力することとしており、22年2月には専門家を参集した円卓会議を開催、また、同年6月までパブリックコメントにより、鶏肉業界や一般消費者を含めて広く意見を募集していた。
3 鶏肉業界からは反発
今回の発表を受けて全米鶏肉協議会(NCC)は、以下の主張を表明した。
・FSISはこれまで、鶏肉製品検査法については「サルモネラ菌の検出は不適切ではない」と解釈しており、連邦裁判所でも同様に解釈された前例もある中で、今回の方針は科学的根拠や裏付けされたデータのない政策の転換である。
・鶏肉業界では、処理・加工の過程でサルモネラ菌の汚染や増幅の防止措置を講じてきた。なお、残存サルモネラ菌は、内部温度華氏165度(摂氏73.9度)以上の調理で死滅する。
・NCCは、消費者が適切な調理手順を容易に認識可能な製品ラベル(図)の義務付けと厳格化がサルモネラ菌感染症の低減策として有効であるとFSISに対して請願してきたが、いまだに回答がない。
・これにより、食鳥処理・加工施設の閉鎖とそれに伴う雇用減少や、安全であるはずの鶏肉製品の出荷不可など鶏肉業界に大きな影響が生じかねない。
【調査情報部 令和4年8月19日発】
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