インフレ抑制法案が成立、農業気候変動対策に大規模予算措置(米国)
米国連邦議会下院は8月12日、米国民主党が7月に発表した「インフレ抑制法案」を可決した。これにより、本法案は両院で可決し、バイデン大統領による署名を経て16日に成立した。本法案は4370億米ドル(59兆2615億7000万円:1米ドル=135.61円(注1))の歳出規模であり、過去最高額となる3690億米ドル(50兆400億9000万円)のエネルギー安全保障と気候変動対策が含まれる(表1)。法人税最低税率の設定などにより歳入を確保することとしている。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の7月末TTS相場。
1 農業気候変動対策への予算措置
本法案による歳出では、エネルギー安全保障と気候変動対策として410億米ドル(5兆5600億1000万円)以上が米国農務省(USDA)に充てられ、そのうち180億5000万米ドル(2兆4477億6050万円)が「保全プログラム」に充当される(表2)。
水質保全、大気環境保全、土壌健全性向上など、農業生産者による自主的な自然資源の保全活動を支援する環境品質インセンティブ・プログラム(EQIP)には84億5000万米ドル(1兆1459億450万円)が措置され、温室効果ガス(GHG)の削減に焦点を当てた取り組みを支援することとされている。畜産分野では牛の腸内メタンガスの削減に向けた飼料管理・給餌方法の技術開発などが支援対象になるという。
その他にも、地域の関係者と米国農務省自然資源保全局(USDA/NRCS)が連携して農場における自然資源保全の課題に対する取り組みを実証する地域保全パートナーシップ・プログラム(RCPP)、家畜の放牧環境の改善、作物の回復力の向上、野生生物の生息地の開発など、保全活動の目標達成に向けた計画などの策定を支援する保全管理責任プログラム(CSP)などに予算が措置される。
2 業界の反応
本法案の可決を受け、米国農業団体からは称賛の声が多い。
(1)全米生乳生産者連盟(NMPF)マルハーン会長
USDAの保全プログラムへの追加予算措置により、酪農家は「2050年環境スチュワードシップ目標(注2)」の達成に向けて、GHG排出量削減に効果的に取り組むことができるようになる。米国酪農業界にとって画期的な予算措置に感謝する。
(注2)米国酪農・乳業業界の持続可能性の分野を代表する米国酪農イノベーションセンターが設定した目標。2050年までに、GHG排出量正味ゼロ、水使用量の最適化と水再利用の最大化、ふん尿や栄養分の利用強化による水質改善を達成することを目標に掲げている。
(2)全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)アップルトン公共政策担当副会長
バイオエタノールなどの持続可能で低炭素な燃料のインフラ整備や土壌健全性の改善に関する農場実践への支援など農家を支援する条項を法案に盛り込んでくれたことに感謝する。トウモロコシ生産者は炭素排出量を削減するとともに、エネルギー安全保障の改善に向けて取り組んでいく。
(3)全米農業者連合(NFU)ラーリュー会長
農家の収益向上に貢献し、かつ消費者の燃料費を節約可能にするバイオ燃料のインフラ整備への予算措置があることを誇りに思う。また、経済的に困難な状況にある農家や畜産農家への支援が含まれていることも、農家が将来にわたって土地を守り続けるために歓迎すべきことである。
【調査情報部 令和4年8月24日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部)
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