マサチューセッツ州、飼養基準に従わない豚肉販売禁止の州法施行を一時停止(米国)
米国北東部に位置するマサチューセッツ州地区の米国連邦裁判所は8月11日、同州が規定する飼養基準に従っていない豚に由来する未加工豚肉の販売を禁止する州法(州法第3号:Question3)の施行を一時停止する決定を下した。同州法では母豚の飼養基準を設け、それに従わない母豚に由来する豚肉の販売を禁止しており、8月15日に施行予定としていた。この停止措置は米国連邦最高裁判所で審議中であるカリフォルニア州法第12号(注)の判決から30日後まで有効とされる。
(注)カリフォルニア州法第12号をめぐる係争
マサチューセッツ州法第3号と同様に、母豚、子牛、採卵用家きんの飼養基準に従わない豚肉、仔牛肉、家きん卵の販売禁止を規定したカリフォルニア州法第12号のうち、母豚に関する規定について、全米豚肉生産者協議会(NPPC)とアメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)が憲法の州際通商(州間商取引)条項に違反するとして、その施行の停止を求めて提訴を行った。地方裁判所および控訴裁判所の棄却を経て、2021年9月に連邦最高裁判所に上告した結果、連邦最高裁判所は22年3月、審理を行うことを決定した。両団体は同年6月に準備書面を提出し、同年10月には口頭弁論が予定されている。
1 背景と経緯
母豚、子牛、採卵用家きんの飼養方法の基準を定め、それに従っていない畜産物の販売を禁止する州法第3号(表)は2016年、動物愛護団体などが主導し、住民投票により77.6%の賛成を得て可決された。州法第3号は当初、22年1月に施行予定であったが、飼養基準に従っていない豚肉の販売禁止については、豚肉流通に大きな影響が生じ得ることを懸念し、同年8月15日まで施行を延期していた。
そのような中で、全米豚肉生産者協議会(NPPC)、全米レストラン協会(NRA)、マサチューセッツ州レストラン協会をはじめとする複数の団体が8月3日、州法第3号の豚肉販売禁止に係る規定が同州の範囲を超えた行為の規制に当たり、州際通商(州間商取引)条項に違反しているとして、州法第3号の施行停止を求めてマサチューセッツ州農業資源局長官を提訴した。その結果、当事者間で合意に至り、今回の裁判所の決定となった。
2 業界の反応
NPPCのウォルターズ会長は「今回の裁判所の決定は、豚を適切な方法で飼養し、豚肉を安定的に供給する米国養豚業者の権利を守るため、NPPCが取り組んできた結果である。特に、州法第3号では飼養基準に従っていない豚肉の州内での積み替えも禁止しており、住民投票の投票権のなかった周辺州の人々にとっても影響が生じかねない。憲法に違反する法律に負けず、サプライチェーンを機能させることがニューイングランド地域(米国北東部6州)、そして全米の家庭にとっての勝利だ」と述べている。
マサチューセッツ州レストラン協会のクラーク会長は「州内のレストランやその利用客にとって素晴らしいニュースである。州内の数多くのレストラン関係者が今後の豚肉の調達と経費を心配している。特に、ラテン系やアジア系のレストランでは、規定に基づいた豚肉の調達実現性に懸念の声が強い」と述べている。
レストラン法律センターのアマドール取締役は「州段階で規制食材を決めてしまうという前例は、全米のサプライチェーンに大きな影響を与えてしまう。こうした独自の価値判断に基づく流通規制は経済を細分化することで非効率にしてしまい、成長を妨げることになるだろう」と述べている。
(参考)カリフォルニア州法第12号をめぐる係争については、以下を参照されたい。
母豚の飼育環境の規制強化に係るカリフォルニア州法の施行が迫る(米国)(2021年12月22日)
母豚の飼育環境規制強化に関するカリフォルニア州法の施行が停止(米国)(2022年2月10日)
また、米国におけるアニマルウェルフェアについての詳細は、
「畜産の情報」2022年8月号「米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの対応について」を参照されたい。
【調査情報部 令和4年8月24日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部)
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