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米農務省、肉用鶏生産者と鶏肉企業の契約システムに新たな規則案(米国)

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 米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)は5月、パッカー・ストックヤード法(注1)に基づく家きん生産者トーナメントシステムに係る新たな規則案を公表し、6月8日から8月23日までパブリックコメントを実施した。この改正は、USDAが2021年6月に新たに制定することを公表していた「市場競争を阻害する不公正で欺瞞的(ぎまんてき)な行為から肉用牛、肉豚、肉用鶏の生産者を保護するための規則」の一つである(注2)

注1:パッカー・ストックヤード法
 食肉企業が不公正で欺瞞的な慣行を行うこと、価格の操作を行うこと、独占を形成することなどを禁止するために1921年に制定された連邦法。
注2:詳細は「【海外情報】米国農務省、生産者や消費者の利益確保に向けた法律の強化に着手(米国)(令和3年6月24日発)」「【海外情報】食肉・食鳥処理の新規参入促進に向けて5億米ドルの支援を発表(米国)(令和3年7月21日発)」を参照。

1 家きん生産者トーナメントシステム

 米国の鶏肉産業では、鶏肉企業による垂直統合(インテグレーション)が進み、鶏肉企業が肉用鶏生産者と委託契約を交わす形態が主流であり、肉用鶏生産者の90%以上が契約生産者である。また、鶏肉企業から契約生産者への報酬支払いの仕組みを「家きん生産者トーナメントシステム」と言う。
 一般的に、鶏肉企業はそれぞれの契約生産者に同じ品質のヒナや飼料などの投入資材、獣医療、流通・集荷、経営指導などを提供し、契約生産者は鶏舎、機材、燃料・電気・水、労働力に係る費用を負担する(図1)。契約生産者への報酬額は「出荷時の肉用鶏総重量」に「重量当たり報酬額」を乗じることで決まり、この「重量当たり報酬額」は、他の契約生産者よりも生産コストを減らせば減らすほど上乗せされる(図2)。つまり、契約生産者同士で生産コストの削減を競わせる「トーナメント」となっている。
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図

2 新たな規則案「養鶏企業の契約とトーナメントシステムにおける透明性」

 USDA/AMSによると、養鶏企業が投入資材の供給を管理する一方で、生産者には契約可能な養鶏企業が限られ、選択の余地がなく、不利な契約条件になることも多いという。そのため、新たな規則案は、契約生産者に公平で公正な競争の場を提供することを目的として、契約や報酬に関する情報、導入する鶏に関する情報、他の契約生産者に提供する投入資材に関する情報の開示を鶏肉企業に求めるものとしている(図3)。
図

3 業界の反応

 新たな規則案について、肉用鶏・鶏肉業界からは賛否の声が出るなど、立場が分かれている。
 生産者を主な会員とする全米農業者連合(NFU)や全米持続的農業連合会(NSAC)は、
・報酬額は鶏肉企業が供給するヒナや飼料などに大きく依存している。
・業界の不公正さを発言する生産者に対して、これら投入資材の不公平な配分がある。鶏肉企業の対応に透明性を確保し、生産者への報復行為を禁止すべきである。
と、現在のシステムの問題点を指摘した上で、
・今回提案された規則案は、報酬額に係るシステムを改善するもので、鶏肉業界を改善するための一歩である。
と賛成の声を上げた。

 一方で、鶏肉企業を主な会員とする全米鶏肉協議会(NCC)は、
・規則案は鶏肉企業の負担増加による壊滅的な財務的影響を与え、鶏肉価格の上昇に繋がるものである。
・開示項目を報酬額に影響する情報のみに限定し、一般公開されている情報や報酬額に無関係な情報は削除すべきである。
・規則案は生産者、鶏肉企業、消費者に貢献してきた米国鶏肉業界の産業構造を破壊するものでしかない。
・USDAは生産コストの上昇を鶏肉企業に押し付けているに過ぎない。
と強く批判し、パブリックコメントに意見書を提出した。

 USDA/AMSは今後、集まった意見を基に最終的な規則を策定する予定である。
【調査情報部 令和4年8月31日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部)
Tel:03-3583-9805