欧州委員会、食肉の短期需給見通しを公表(EU)
欧州委員会は2022年10月5日、農畜産物の短期需給見通し(注)を公表した。今回、このうち食肉(牛、豚、鶏)の概要について紹介する。
(注)欧州委員会は、農畜産物の短期需給見通しを年3回(3月、7月、10月)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。
<牛肉>
2022年上半期(1〜6月)の牛肉生産量は、と畜頭数が0.4%増加したものの、枝肉重量が1.0%減少したため、全体として前年同期比0.6%減となった。これは、飼料価格の高騰により下半期に出荷を予定していた牛が早期に出荷されたことを示している。
飼料価格の高止まりや牧草の入手が困難な状況は今後も続くと見込まれているため、22年末までと畜頭数の増加が予想されている。しかしながら、枝肉重量の減少も見込まれるため、22年の牛肉生産量は前回7月の見通しからわずかに下方修正され、前年比0.6%減と予測されている(表1)。ただし、飼料価格の下落や牧草の入手が安易となれば、23年の生産は安定するとされている。
22年上半期の牛肉輸出量は、カナダ、日本、英国向けなど高価格製品を求める市場への輸出が好調であった一方で、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、フィリピン、スイス向けがやや減少、香港向けが大きく減少したことから前年同期比2.4%減となった。22年の牛肉輸出量は、牛肉生産量の大幅な増加が見込めず、牛肉価格も比較的高いことから前年比1.0%減と予測され、23年はわずかに増加するとされている。
22年上半期の牛肉輸入量は、英国からの輸入量が大きく増加したことにより、前年同期比32%増となった。今後もEU圏内の外食産業の再開や英国、ブラジルからの輸入の回復、また、アルゼンチンからのさらなる輸入により、22年の牛肉輸入量は前年比25%増と予測されている。
<豚肉>
2022年の豚肉生産量は、前回7月時の見通しから下方修正され、前年比5.0%減と見込まれている(表2)。特にポーランド、ベルギー、ルーマニア、イタリアでの減産幅が大きく、アフリカ豚熱によるドイツの影響も依然として大きい。飼料価格が高止まりし、アフリカ豚熱が引き続き影響を及ぼすと考えられるため、23年の豚肉生産量は22年よりさらに0.7%減少すると予測されている。
また、22年の豚肉消費量は前年比1.9%減となり、1人当たり年間消費量は32.1キログラムと予測され、23年も横ばいで推移するとされている。
22年の豚肉価格は、旺盛な需要と供給量の減少により高騰したため、相対的にEU豚肉の価格競争力が低下し、輸出量は前年比16.8%減と見込まれている。英国向けの輸出は回復を続けると予測されているが、国内の生産が回復した中国向けは2017〜18年の輸出水準で安定(22年上半期は前年同期比で72%減)すると予測されている。なお、中国向けの減少分は、日本(同45%増)、フィリピン(同40%増)、米国(同35%増)、豪州(同66%増)へ振り向けられたとみられる。
<家きん肉>
2022年家きん肉生産量は、飼料価格や燃料費などの投入コストの高騰と高病原性鳥インフルエンザの影響はあったものの、食料価格が高騰する中で比較的安価なことから、前年比0.9%減と予測されている(表3)。高病原性鳥インフルエンザは、特に、イタリア、フランスおよびハンガリーでの影響が大きいことから、23年も引き続き減産が予想され、前年比0.4%減と見込まれている。
22年の家きん肉輸出量は、英国向けが前年比20%増(2017〜19年平均比4%増)と予測されている。しかし、EU産の家きん肉価格は過去5年平均を大きく上回る価格で推移しており、価格競争力が失われつつあることから、ブラジルなど鶏肉の輸出競合国にアフリカやアジア市場の一部を奪われることで前年比2.2%減と予測され、23年はほぼ横ばいの前年比0.3%増とされている。
一方で、22年は価格優位性のあるブラジルからの鶏肉輸入量が大きく増加すると予測されている(前年比35%増)。さらに、6月から輸入関税が無税となったウクライナからの輸入も増加している。これらの結果、22年の家きん肉輸入量は前年比28.9%増と予測され、23年もこの傾向は続くことで同7.7%増とされている。
【上村 照子 令和4年10月20日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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