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ウクライナ産トウモロコシを巡る情勢(その11)〜黒海ルートの動向〜

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黒海穀物イニシアティブの下での穀物輸出の動向

 黒海穀物イニシアティブの共同調整センター(注)は10月17日、7月22日の同イニシアティブの締結以降、ウクライナの3港から輸出された穀物が781万1365トンになったことを公表した。このうちEU諸国には、全体の46.7%に当たる364万6813トンが輸出された。
 同イニシアティブは、世界的な食料危機への対応が主な目的とされたが、実際はEU諸国など食料危機に該当しない地域への輸出が主体となっている。このため、ロシアのプーチン大統領は9月7日、ウクライナ産穀物が世界の最貧地域に輸出されていないことを批判し、輸出先を制限するためトルコのエルドアン大統領との間で同イニシアティブの修正協議を行うことを表明した。同イニシアティブの有効期間は120日であるため11月19日にはその期限を迎えるが、ウクライナとロシアのいずれか一方が同イニシアティブを終了する意思を通知しない限り、自動的に延長される。有効期間の終了前に協議が行われる可能性は高く、同イニシアティブの継続が懸念されている。
 
(注)ウクライナとロシアは国連とトルコの仲介の下、今年7月、ウクライナのオデーサ港、チョルノモルスク港、イズニー港からの穀物と肥料の安全な輸出航路の確保に関する「黒海穀物イニシアティブ」に署名し、これに基づき輸出を共同で進める共同調整センターを設置。

ウクライナの穀物輸出状況

 ウクライナの農業政策食料省が公表している10月12日時点の今期(7月〜翌6月)の穀物輸出状況は、7月1日から10月12日までに穀物および豆類合計で1025万トン輸出され、うちトウモロコシは559万トン輸出された。これらは旧穀であり、在庫から輸出が行われている状況にある。
 黒海穀物イニシアティブの下で輸出が回復する中、ウクライナ穀物協会(UGA)は9月15日、物流費が穀物価格を押し上げていることを公表した。UGAによると、現在の穀物価格の3割を物流費が占めるとされ、ウクライナ産穀物の一層の流通には、物流費を抑える新たな方法が重要であるとした。また、輸出能力をより高めるには、隣国ポーランド経由の輸出が必要と述べている。なお、ウクライナからの穀物輸出の15%は陸路によるものであり、両国の政府は穀物輸送を拡大するためにあらゆる手段を講じている。

ウクライナ農業相、連帯の強化を呼びかけるもルーマニアは異議

 EU加盟国とモルドバ、グルジア、ウクライナの農業担当大臣による非公式会合が、9月14〜16日にチェコのプラハで開催された。ウクライナのソルスキー農業政策・食糧大臣は、同会合で欧州委員会が5月に発表したウクライナ産穀物、家畜飼料、肥料、人道支援などのための「連帯レーン」を巡る取り組みのさらなる強化に向け、以下の計画を発表した。
  • ウクライナ産穀物を途切れることなく輸送するため、EU諸国との国境に穀物搬送装置を備えたターミナル施設を建設(各ターミナルの輸送容量は年間200万トン)。この建設のためにEUの資金融資を要請。
  • ウクライナの積み込みターミナルと欧州港の積み下ろしターミナルをつなぐ植物油の輸送用パイプラインの建設。この実現により年間200万トンの輸送が可能。ソルスキー大臣は、ポーランドとの間で、すでに同パイプラインの建設に関する覚書に署名しており、同建設計画は進行中。この建設のためにEUの資金融資を要請。
  • EU諸国では穀物輸送のための鉄道車両や貨物車両が不足しているため、穀物運搬車を3640台、貨物トラックを6000台増やすことで年間1000万トンの穀物の追加輸送が可能になる。穀物輸送に使用する鉄道車両と貨物車両の製造に最大50%の補助を要請。
  • ポーランドとドイツを経由して、ポーランドのグダニスク港、ドイツのロストック港、ハンブルク港に向かうウクライナの穀物運搬車には、欧州の鉄道路線に合うように台車を改造した鉄道車両を割り当てる必要から、走行経路と走行ダイヤの制定を提案。
 
 ウクライナがEUに連帯強化を求める一方で、EU加盟国のルーマニアは、安価なウクライナ産穀物が市場に流れ込むことでルーマニアの生産者が倒産寸前にあるとし、「連帯レーン」経由のウクライナ産穀物の輸入停止を呼び掛けている。ルーマニアの農業協力連盟は、本来ルーマニアを通過してEU加盟国に運ばれるヒマワリ、小麦、大麦、トウモロコシなどの穀物がルーマニア市場で流通しており、国内市場価格が下落し国内生産者が打撃を受けているとしている。このため、ウクライナ産穀物がルーマニア市場へ流入しないよう、港湾での管理強化やトレーサビリティの確保などを求めている。
 これに対し、EUのボイチェホフスキ農業担当欧州委員は9月26日、「ウクライナ産穀物の輸出がEU市場に破壊的あるいはマイナスの影響を与えることはない」とし、ルーマニアの要請には応えない立場を示した。

ウクライナの穀物収穫状況

 ウクライナは現在、穀物の収穫期となっている。UGAによると、10月14日現在で穀物および豆類の作付面積の約64%の収穫が完了し、収量は2710万トン、平均単収は1ヘクタール当たり3.84トンとされている。うちトウモロコシについては、5%の収穫が完了している。
  • 小麦    :100%収穫、収量1920万トン、単収4.10トン
  • 大麦    :100%収穫、収量  560万トン、単収3.51トン
  • エンドウ豆 :100%収穫、収量  26万トン、単収2.31トン
  • トウモロコシ:  5%収穫、収量  23万トン、単収4.37トン
【調査情報部 令和4年10月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527