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欧州の製糖業界、EUと豪州の自由貿易協定交渉に対し、砂糖輸入に関する懸念を発表

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最終更新日:2022年12月2日

 欧州砂糖製造者協会(CEFS)は10月10日、同協会のホームページを通じ、現在進められているEUと豪州の自由貿易協定(FTA)交渉(注1)について、EU市場を第三国の砂糖に開放することに対する懸念を表明した。

1.EU域内での砂糖生産と消費事情

 EUの砂糖生産量は、近年一貫して域内消費を十分に満たしており、欧州委員会の統計では2017/18年度以降、毎年、生産量が消費量を上回っている(参考)。また、生産コストが上昇傾向にある中で、十分な期末在庫量が確保され、かつ、継続して砂糖を輸出している。現状、EU市場では砂糖の入手に苦慮していないことは明白である。

2.これまでの貿易交渉

 豪州はすでにEU市場に参入しており、WTO協定に基づいた年間1万トンの関税割当が設けられているほか、全加盟国向けの割当(約30万トン)を利用することができる。また、EUはすでにブラジルや中米諸国、南アフリカなどの砂糖生産国や地域に対し、砂糖輸入に関する大幅な免税措置を行っている。特に中米6カ国では、関税割当量を毎年「際限なく」増加させる前例のない措置を執っており、その量は年間約5000トンを上回っている。

3.持続可能性と不平等な競争

 持続可能性は、長きにわたりEUでのてん菜生産の中核をなす方針であり、EUのてん菜生産者と製糖メーカーは、世界で最も高い環境・衛生基準を遵守している。しかしその一方で、生産コストは非常に高い状況にあり、例えば、EUの製糖企業は排出権取引制度の対象であるのに対し、豪州にはそのような温室効果ガス(GHG)排出規制に関する制度は存在しない。また、EUのFarm to Fork戦略(注2)では、2030年までに農薬と肥料の使用量の半減を目標に掲げている一方、豪州では承認された活性物質の数でEUを上回り、サトウキビの化学処理に関する制限もはるかに緩やかである。このようにコストや環境の面で、EUの生産者は不平等な競争を強いられている。

4.豪州との物理的距離

 EUにとって豪州ははるか遠方であり、市場規模も小さいことから、欧州の砂糖輸出業者が豪州とのFTAで得られる利益は少ない。また、輸送コストが高いだけではなく、物流にかかるGHGの発生も無視できず、持続可能性を柱としたEUの砂糖産業の考えに到底合致するものではない。豪州にとっても、EUは本来の輸出先ではないため、同国の業界関係者はEU市場が主要輸出先である東アジアの消費が飽和した際に利用できる市場として位置づけていることを認めている。

5.EU域内の産業としての重要性

 砂糖産業はEU全域の農村地域に住む数十万世帯の生活を支える農業と工業のハイブリッド産業である。このような地域では、高報酬を得ることができる産業は少なく、かつ、簡単に他の業態に代替できる状況にもないため、砂糖産業の衰退は、農村地域の持続可能性を脅かすものであるとしている。また、てん菜糖の生産は資本集約度が高く、栽培には高度な農学的専門性が求められることから、一度産業が衰退してしまうとその後の再興が困難である。さらに、てん菜はバイオエタノールなどの生産にも使用され、化石燃料への依存を減らすことにも大きく貢献するなど、EUにおける重要な産業として存在している。
 ホームページでは、EU市場を第三国の砂糖に開放することは、これまで培われてきたEUの砂糖産業の未来を脅かす危険性をはらんでいるとしている。また、世界の不確実性が高まったことで食糧やエネルギー資源の輸入に対する信頼感が薄れる中、政治家や政策立案者は、製糖業界のようなEUの食糧やエネルギーを支える産業に対し、より目を向けるべきだと主張している。
(注1)EUは本年6月にも、ニュージーランドとのFTAで大筋合意に達しているなど、オセアニア地域におけるFTA締結が続いている。詳細については、2022年7月11日付海外情報「EUとニュージーランド、FTAで大筋合意 (その1:EU側の措置と反応)(EU)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003300.htmlを参照されたい。

(注2)欧州委員会は、欧州グリーンディールを政策の最優先課題に挙げており、そこで掲げられているGHG排出量の削減、Farm to Fork戦略に代表される持続可能な食品供給の実現、生物多様性の保全といった目標を掲げている。詳細については、『畜産の情報』2021年11月号「EUにおける有機農業の位置付けと生産の現状」https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001853.htmlを参照されたい。
(参考)EUの砂糖生産量と消費量の推移
【峯岸 啓之 令和4年12月2日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際情報グループ)
Tel:03-3583-9806