中国国家発展改革委員会(以下「発改委」という)など関係機関は2022年11月4日、国家備蓄による豚肉の市場放出(1万トン)を実施した。中国では、21年7月から22年6月にかけて生体豚価格の低迷から、「政府の豚肉備蓄調整メカニズムを改善し、豚肉市場の供給と価格の安定を図る準備計画」(注1)に基づく豚肉の買入れおよび保管を実施してきた。しかし、6月以降、生体豚価格が急激に上昇に転じたことで、秋冬季の需要期に向けた安定的な供給確保を目的に、今年9月から複数回にわたり備蓄豚肉の市場放出を行っており、今回で7回目の実施となった(注2)。今回を含めて9月以降の国家備蓄からの市場放出は合計で13万7100トンとされている。
発改委によると、養豚生産者の経営状況の指標の一つである豚/穀物比(注3)は22年の3月下旬に底を打った後、少しずつ回復傾向にあったが、6月下旬から7月にかけて急激に上昇し、損益分岐点とされる7:1の水準を超過した(図)。その後、8月下旬には再度上昇し、10月下旬には9.66:1とアフリカ豚熱の影響から養豚業が回復傾向にあった21年4月以降の最高値を記録した。しかし11月に入りコロナ禍で需要が低迷する中、市場放出がより奏功し、豚肉価格は一転して下落傾向となり、豚/穀物比も下落している。発改委は、大手生産者とともに市場への豚肉供給量確保と価格安定に向け、必要に応じ出荷量を増加することで社会的責任を果たすとしている。
現地関係機関によると、11月以降の豚肉価格の下落に対し、国家備蓄の放出による効果があったとともに、想定以上にコロナ禍による需要の低迷が進んだことを挙げている。これは、散発する新型コロナウイルス感染症による規制強化に伴う外出制限の強化などの影響と推定される。また、例年、秋口から需要が増す春節向けのハムやソーセージなどの加工品製造が、価格上昇が続いた中で遅れていることも一因とされる。価格が下落基調にあることで、今後は年末に向けて加工品製造が本格化すると見込まれている。
(注1)「完善政府猪肉儲備調節机制 做好猪肉市場保供穏价工作預案」
(2021年第770号公告)を指す。なお、詳細は海外情報「
豚肉価格下落を受けて国家備蓄のための豚肉の買入・保管を開始(中国)」を参照されたい。
(注2)国家備蓄による豚肉の市場解放の第1回目については海外情報「
秋季の大型連休に向けて国家備蓄による豚肉の市場放出を実施(中国)」を参照されたい。
(注3)政府による養豚生産者の収益性の指標値。算出方法は、1キログラム当たり生体豚出荷価格/1キログラム当たりトウモロコシ卸売価格。損益分岐点は7:1とされている。価格高騰時の警報水準のうち、最も低い水準である第3級警報基準は9:1以上とされる。