欧州医薬品庁(EMA)は11月18日、欧州の抗菌性動物用医薬品販売量に関する年次報告書を発表した。同報告書によれば、2011年から21年の間に継続的にデータを提供した25カ国について、抗菌性動物用医薬品の総販売量が161.2ミリグラム/PCU(注1)から86.2ミリグラム/PCUへと、この10年間で46.5%減少した。
(注1)PCU(Population Correction Unit)とは、治療時の家畜の標準的な体重(キログラム)に、統計に基づく頭数を乗じたもの。抗生物質の使用量を年次別、家畜別、国別に比較するために欧州医薬品庁のプロジェクトチームが提唱する方法で算出された畜産物重量のこと。
報告書では、ほとんどの抗菌性動物用医薬品の販売量が減少する中、21年の販売量のうち3分の2を占めているテトラサイクリン(11年比で63.4%減)、ペニシリン(同24.1%減)、サルファ剤(同53.8%減)の減少が、特に大きく寄与したとしている。
さらに、21年のEU加盟27カ国の販売量は、18年の118.3 ミリグラム/PCUと比較して、21.7ミリグラム/PCU少ない96.6ミリグラム/PCUであった。これは、EUの「Farm to Fork戦略」の目標とする削減幅59.1ミリグラム/PCU(注2)のおよそ3分の1に相当する。
(注2)2030年までにEU全体の抗菌性動物用医薬品の使用の50パーセント削減を目標とする。具体的には2030年の販売量目標を59.2ミリグラム/PCUに削減するとしている。
減少した背景として報告書では、抗菌性動物用医薬品の予防的使用を特定の状況下でのみ許可したこと、重要な抗菌性医薬品はヒトの疾病の治療に限定し動物への使用を制限したことや、家畜に使用される抗菌性動物用医薬品の販売量などの報告を加盟国に義務付けたことなどを挙げている。
また、この結果についてEMAの責任者は、薬剤耐性(AMR)を防ぐために抗菌性動物用医薬品の使用を減らすという獣医師、生産者、製薬業界の努力を反映したものであると述べている。
一方、欧州の動物用医薬品やワクチンメーカーを代表する団体であるアニマルヘルスヨーロッパは、同日付のプレスリリースを通じて販売量が半減したことについて歓迎するとの声明を発表した。しかし一方では、抗菌性動物用医薬品の売上が急減しても、一定量の販売が続いている点に言及し、効果的な予防措置を導入できた後であっても、感染が発生した場合、細菌性の疾病に対する治療には抗生物質が唯一の手段であることを心に留めておく必要があるとしている。このため、抗菌性動物用医薬品の販売量を削減するだけでは、AMRの発生を防ぐというEUの政策や行動計画の目的を達成することはできず、獣医師が専門的な判断で、抗生物質を含む最も適切な治療法を決定できることが重要であると強調している。