アイルランド政府は1月5日、同国から中国への牛肉輸出が再開されると発表した。
2018年4月に開始された中国への牛肉輸出は、20年5月にアイルランドでの非定型BSE(注1)の発生を受けて停止していた。非定型BSEは、公衆衛生上のリスクとはみなされていないものの、中国はアイルランドからの牛肉の輸入を直ちに停止した。中国側の発表によると、今回の輸出再開は、アイルランドの21の食肉処理・加工施設からの30カ月齢以下の除骨した冷凍牛肉および冷凍牛脂(同じく30カ月齢以下で内臓を除く)が対象とされている。
(注1)異常プリオンたんぱく質に汚染された肉骨粉などの飼料を介した感染によらず、加齢により孤発的(自然発生的)に発生すると考えられ、国際獣疫事務局(OIE)によるBSEステータスに影響を及ぼさない。
マッコナローグ・アイルランド農業・食糧・海洋大臣は「中国への牛肉輸出再開に向けた交渉は、この2年半の間、我々の最優先事項であった」と述べ、輸出再開を歓迎した。一方で、今後、アイルランドが高品質の牛肉輸出国としての地位を維持できるかどうかは、動物衛生および食品安全基準を遵守しているかどうかにかかっているとし、中国が以前と同じ条件で牛肉輸入を再開したことは、アイルランドの牛肉産業に対する信頼感の表明であるとして自信をのぞかせた。
同様にマーティン・ヘイドン国務大臣は「私たちは中国当局と協力し、アイルランドの食品・飲料の中国市場へのアクセスを維持・強化するよう努めていく」と述べ、輸出拡大への期待を表した。
また、アイルランド食品委員会(Bord Bia)は、中国で今後数カ月間、集中的に販売促進活動を行い、その後は24年5月まで継続する予定と発表している。
アイルランドから中国への牛肉輸出は、輸出停止前の19年が7824トンと、同年の冷凍牛肉の輸出量(製品重量:9万6428トン)の8%を占めており、20年も5月までは増加傾向にあった。
一方、アイルランド畜産・牧羊業者協会(ICSA)は、中国への牛肉輸出再開を歓迎しつつも、「中国市場が開放されても価格上昇につながらなければ意味がなく、現在の生産コスト高をカバーするため、牛肉価格は1キログラム当たり6ユーロ(858円:1ユーロ=142.97円(注2))の水準が必要(注:1月第1週アイルランド枝肉価格(A/C/Z)は同5.43ユーロ)」との声明を発表し、期待感のみではないことを強調した。また、中国への輸出再開を利用して、EU域内のスーパーマーケットとの価格交渉を有利に行う必要があるとし、輸出再開がもたらす影響について、やや慎重な態度を示した。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年12月末TTS相場。