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ネオニコチノイド系農薬の緊急使用に否認の判決(EU)

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最終更新日:2023年2月7日

 欧州司法裁判所(CJEU)は1月19日、EUで使用が原則禁止されているネオニコチノイド系農薬の緊急的使用を認める例外規定を否認する判決を下した。判決に際してCJEUは、環境への損害との因果関係が科学的に不確実であっても、環境に負の影響を及ぼさないよう配慮するとしたEUの原則(予防原則)を厳格に適用し、同農薬の安全性が立証できない中で、作物の生産性向上や経済的利益以上に生物の健康や環境の保護が優先されるべきであると結論付けた。

 EUでは、ミツバチなどに影響を及ぼす同農薬の使用について、2013年に部分的な使用制限が課され、18年にはすべての作物について屋外使用を禁止するなど、厳しい制限を課してきた(注1)。しかし、度重なる病虫害の被害が発生する中で代替策が見出せないことから、同農薬の特例的な使用が認められてきた(注2)。従来、同農薬でコーティング処理した種子の使用は、屋内などの閉鎖的環境に限定され、作物のライフサイクルが屋内で完結し、屋外へ持ち出されないことが使用の条件とされてきた。しかし、例外規定により()場での使用が増加し、問題視されていた。

 この判決について、同農薬の使用に反対する立場の団体や活動家は、同農薬の使用禁止の抜け穴を塞ぐ裁判所の立場を歓迎している。有機農業を推進するベルギーの組織は、この判決は一部の製糖企業や農薬企業の利益よりも環境への配慮が重要であることを示していると述べた。また、欧州のNGO団体であるPAN Europeは、EUでは過去4年間で236件を超える禁止農薬の例外的な使用を認めており、同農薬はそれらのほぼ半分(47.5%)の件数を占めていると発表し、同農薬の例外利用を問題視した。
 
 一方、欧州砂糖製造者協会(CEFS)、欧州てん菜生産者連盟(CIBE)、欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(COPA−COGECA)は1月20日に共同声明を公表し、この判決は、非常に制限的な規則解釈に基づくものであり、特例措置の廃止によるEUの砂糖産業への影響に対し、強い危機感を表した。

 CIBEは、この理解しがたい判決は、法的解釈と生産者が直面する現実との間に隔たりがあることを示していると述べ、播種の始まる数週間前に、多くの生産者に不安と混乱を招いている状況を打開することが急務であるとしている。また、CEFSも、てん菜はEUで砂糖を生産する唯一の方法であり、農家がてん菜を育てられなければ、砂糖の生産は成り立たないと述べた。さらに、経済的に貧しい農村地域では、製糖工場が閉鎖されることで産業や雇用が失われ、加えてEUでは、生産や輸送に多くのCO2を排出し環境への負荷が大きい海外産の輸入糖に依存することになるとの懸念を示した。EU最大のてん菜生産国であるフランスのてん菜生産者組合(CGB)も、来春のてん菜栽培に向けて播種を始める数週間前に下されたこの判決を非難している。
 
 近年、EUのてん菜生産者は、()(おう)(注3)を始めとした深刻な病虫害に悩まされ、フランスではネオニコチノイド系農薬の使用禁止により、同国のてん菜収量が3割減少したと報告されている。EUでは、てん菜生産量の大幅な減少を食い止めるため迅速かつ効果的な解決策が求められているが、同農薬に代わる効果的な農薬は未だ開発段階にあり、実用化には至っていない。このような中、フランスでは、20年に萎黄病による深刻な損失を受けたことから、同国政府がてん菜生産者に対して同農薬の使用禁止まで最大3年間の猶予期間を与えており、本年が3年目となる。これまでEU加盟国では、てん菜の種子への同農薬によるコーティング処理が例外として認められてきたが、今後は使用ができなくなることから、EUにおけるてん菜の生産量や単収、製糖率など、需給への影響が懸念される。
 
(注1)詳細については、2018年5月31日付海外情報「欧州委員会、3種類のネオニコチノイド系農薬の屋外での使用禁止を決定(EU)」https://alic.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002218.html、『砂糖類・でん粉情報』2020年10月号「生産割当廃止後のEUにおける砂糖および異性化糖産業の動向」https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002302.htmlを参照されたい。
 
(注2)欧州議会および理事会規則(EC)No.1107/2009で、加盟国は特定の作物に対して「特別な状況下」(具体的には「他の合理的な手段では封じ込めない危険性」がある場合)において、「緊急的な植物保護製品の使用制限緩和」が認められている。
 
(注3)アブラムシによって媒介されるウイルス性の病気で、てん菜の単収減少を引き起こす。
(参考)欧州諸国のてん菜生産量と砂糖生産量の推移
【峯岸 啓之 令和5年2月7日発】
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