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EUの有機農畜産物に関する直近の情勢(EU)

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 欧州委員会は2023年1月18日、近年のEU域内の有機農畜産物の進展についてとりまとめたレポートを発表した。
 同レポートによると、20年のEUの農用地のうち、有機農地が占める割合は9.1%(1480万ヘクタール)となり、12年の5.9%から比較すると、年平均5.7%の率で増加した。国別では、フランス、スペイン、イタリア、ドイツの4か国で全体の半分以上を占めている。有機農地の内訳としては、永年草地が42%、青刈りトウモロコシを含む牧草地が17%となり、これら2つで全体の約6割を占めている。また全生産者のうち、3.6%が何らかの形で有機農業を行っている。
 畜産については、20年の推定値で牛飼育頭数の6.0%、豚の飼育頭数の1.0%、家きんの飼育羽数の3.6%で有機飼育が行われている。EUにおける牛の飼育は、有機飼育と親和性の高い粗放的な放牧が多く行われている。一方で、穀物飼育される豚や家きんは、有機飼料のコストが高く、動物医薬品の投与が制限されるなど、有機飼育への転換のハードルが高いことからその割合は低い傾向にある。
(参考)海外情報 畜産の情報2021年11月号 「EUにおける有機農業の位置付けと生産の現状」
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001853.html

酪農について

 慣行飼育に比べ有機飼育の場合、2020年の1戸当たり生乳生産量は8〜33%減少する一方、有機生乳価格の上乗せ(プレミアム)は平均して20%以上となった。
 労働者1人当たりの手取収入(粗収入−費用)で見ると、デンマーク(20年EU域内生産量8位)、オーストリア(同11位)、オランダ(同3位)、スウェーデン(同12位)では、有機飼育が慣行飼育を上回った。一方、ポーランド(同5位)、ドイツ(同1位)、フランス(同2位)では、有機飼育の手取収入が慣行飼育によるものを下回っている。これは、ポーランド、ドイツ、フランスとも有機飼育による1戸当たり生乳生産量が、慣行飼育によるものを下回る一方、有機飼育の生産コストが高い(ドイツ)ことや、有機生乳に対する上乗せが不十分(フランス)、あるいは全くない(ポーランド)ことが理由である。ただし、政府による補助金を合算すると、ドイツとフランスの収入はほぼ慣行飼育の収入と同水準となっている。

肉用牛について

 慣行飼育に比べ有機飼育の場合、肥育牛価格は5〜30%下回っている。これは、枝肉が歩留まりや脂肪の交雑度合いにより格付けされるためであり、有機飼育による枝肉が低く評価される傾向があるためである。ただし、1頭当たりの生産コストは慣行飼育より低い傾向にある。
 労働者1人当たりの手取収入(粗収入−費用)で見ると、スロベニアを除くすべての国で、有機飼育による手取収入が慣行飼育によるものを下回る状況であった。ただし、政府による補助金は有機飼育生産者に手厚いことから、合計すると有機飼育の収入の方が上回る国もある。ドイツやベルギーなど一部の国では、収入に占める補助金の割合が100%を超える国もあった(有機飼育による手取収入は赤字)。

有機農畜産物の販売は伸長

 2022年の消費者に対する調査では、有機農畜産物を表すロゴについては6割以上の消費者が認識していた。一方、消費者が買い物を行うときに「持続可能な食品」を判断する観点として、回答が多かった順に「栄養があり健康的なもの(41%)」、「農薬をほとんど又は全く使用していないもの(32%)」、「手ごろな価格で入手容易なもの(29%)」となり、「環境や気候への影響が少ない(22%)」を上回っていた。このように、環境面のメリットだけの訴求では必ずしも消費者にアピールしきれないことが見て取れる。
 12年と21年の有機牛乳・乳製品の小売販売量を比較すると、牛乳は62%、チーズは125%(2.25倍)、ヨーグルトは73%、バターおよびバタースプレッドは50%増加しており、販売は大きく伸びている。

有機農畜産物の消費は減少

 米国農務省(USDA)が2023年1月26日に公表したEUの有機農畜産物の販売に関するレポートでは、21年は新型コロナウイルス感染症の影響により家庭内消費が増加する中、健康への意識が向上したことの影響で、有機農畜産物の消費が増加した。一方、22年は食品価格やエネルギー価格上昇を含むインフレの影響により、多くの加盟国で価格が高い有機農畜産物の消費が減少すると見込んでいる。
 23年1月末に開催されたEUの乳業関係団体の会議でも、各国の団体から消費者の購買力が低下しており、有機乳製品などの通常より高価格の製品について売れ行きが悪いという報告がなされた。

今後の見通しについて

 欧州委員会は2030年に農用地の25%を有機農業とすると目標を掲げているが、欧州各国の有機農業関連団体を会員とする国際有機農業運動連盟(IFOAM)ヨーロッパが20年2月8日に公開したレポートでは、このままの増加ペースで推移すれば同割合は14%にとどまるとしている。大手農業コンサルによる他の分析でも、同様の結果(約16〜18%)が予想されている。
 堅調な需要を背景に拡大を続けていた有機農業であるが、22年はインフレにより消費者の購買力が減少し、需要が停滞した。有機農業は国によって状況は異なるものの、現状では生産者にとっては収益面や労力的には必ずしも魅力的な選択肢とは言えず、政策面でのテコ入れがどの程度行われるかが、重要な役割を果たすとみられる。
【調査情報部 令和5年3月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527