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畜産の扱いをめぐり難航する産業排出指令の改正(EU)

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 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は2023年2月17日、産業から発生する汚染物質の排出制限を強化するEUの産業排出指令の改正案(参考)について緊急の声明を発出した。同改正案は、22年4月5日に欧州委員会が提出したもので、その後、農相理事会や欧州議会で審議されていた。Copa-Cogecaは、同改正案では影響を受ける農家数が過小に見積もられていると警告した。
 同改正案は今まで対象外であった牛の生産者も新たに対象とするとともに、豚や家きんの生産者の対象範囲を拡大するものである。その結果、全体の13%を占める18万5000戸(現行規制では2万戸)の畜産生産者が対象となると推計されていた。

(参考)海外情報「欧州委員会、汚染物質排出制限強化で畜産生産者の範囲拡大案を発表(EU)

 しかし、同声明によれば、欧州委員会が同改正案の影響を推計するために利用した16年のデータの代わりに最新20年のデータを用いると、この改正により影響を受ける畜産生産者数は、全体では当初推計の13%から20%に、養豚生産者数は同18%から61%に、家きん生産者数は同15%から58%に増加すると試算されている。Copa-Cogecaは「こういった基準は、極めて政治的な意図で定められ、生産者にとって懲罰的で、現実に即さないものである。EUの政策立案者がこの新しいデータを真剣に考慮し、この提案を再評価することを切実に望んでいる」と主張している。
 
 23年1月16日に開催された農相理事会では、同改正案の内容について議論が行われたものの、各国農相からは、食料安全保障や欧州の農場の経済的な活力に悪影響を与えるとして、委員会案で制度対象とする150LSU(家畜単位:乳牛で150頭、肥育豚で300頭相当)基準の緩和を要求した。同様に欧州議会農業委員会でも、畜産経営を持続可能な方向に向かわせるためには、政策による規制ではなく支援を行う方が効果的とした。また、特に小規模生産者にとっては制度対応のための負担が大きいとして、基準の緩和(制度の対象となる生産者の拡大)そのものに反対する意見が上がっている。
 1年近く前に提出された同改正案は、非政府組織(NGO)から支持される一方、制度対象範囲について、欧州委員会、欧州議会、EU理事会(農相理事会)での協議がそれぞれ難航しており、今回Copa-Cogecaが発出した声明内容が、これにさらなる影響を与えると予想される。
【調査情報部 令和5年3月15日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527