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欧州委員会、家畜の海上輸送に係る規制を強化(EU)

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 欧州委員会は2023年2月17日、EU加盟国による家畜運搬船に対する検査と管理を改善するための2つの新規則を採択した。これは、19年11月にルーマニアから家畜運搬に適さない自動車運搬船に羊1万4000頭が積み込まれ、黒海で沈没した事件が発端となっている。この事件を契機に、家畜の海上輸送に関する規制が見直され、今回採択された新規則ではより厳格化されたものとなっている。

新規則のポイント

 加盟国の所轄官庁に対し、新たに以下の事項が要求されることとなった。
  1. 家畜の積み込み前や積み下ろし後に写真やビデオ撮影を含めた家畜運搬船の検査を実施
  2. 家畜運搬船に対する検査結果について、加盟国間で共同利用できるデータベースを構築
  3. 緊急時対応マニュアルが整備されているかを確認
  4. 家畜運搬船が初めて家畜を積み込んだ輸送を実施する際、公的機関の獣医師が乗り込み、航海中に家畜管理を実施
  5. 船への積み込み前や船からの積み下ろし後に、家畜が食事をとり、水を飲むことができる休息地点を車で2時間以内の場所に設置
 EUのキリアキデス保健・食品安全担当委員は、プレスリリースを通じて以下のようにコメントしている。
  • 近年発生した家畜輸送船の事故は、現在の輸送方法が容認できるものではなく、動物福祉を損なうものであることを示している
  • 新しい規則と、今後予定されている動物福祉法の見直しにより、海上輸送される動物は、高い水準の動物福祉の恩恵を受けられるようになる
 新規則は、欧州議会またはEU理事会の反対がない限り、23年5月(一部の条項は24年1月)からの発効が予定されている。

動物福祉団体は不十分と批判

 一方、動物福祉団体は、この新規則では十分な動物福祉保護が行われないと批判し、生体家畜の第三国への輸送をEUが全面的に禁止するよう求めている。  ユーログループ・フォー・アニマルズは2月21日付の声明の中で、「この変更は管理面での不都合さへの対処に留まっており、長くて困難な船旅を行う家畜に対する動物保護への影響は限定的である」と述べ、情報共有のために新設するデータベースについても、「EU域外への輸送を管理するには役に立たない」と非難している。同団体代表は「動物福祉を本当に保証するためには、こうした輸送を禁止するしかない」と主張している。

EU域外への家畜輸出は拡大傾向

 EUから域外への家畜輸出は牛、馬、豚、家きん、羊などで行われ、その規模は拡大傾向にある。生体牛の輸出頭数で見ると、2010年には60万頭に満たない頭数であったが、16年以降は100万頭を上回る水準で推移している(参考:21年のEU域内の牛飼育頭数は約7600万頭)。
 生体牛の主要輸出先はイスラエル、トルコ、アルジェリアなど中近東や北アフリカ、ロシア、英国などである。イスラエルへは、食肉用の肥育牛(非去勢の雄牛)や酪農用の未経産牛、トルコへは食肉用の肥育牛(一部は繁殖用)、アルジェリアへは酪農用の未経産牛や食肉用の肥育牛などが輸出されている。
 また、北アフリカや中近東諸国向けは、宗教上の問題から自国でと畜された牛肉が好まれることに加え、冷蔵や冷凍牛肉よりも生鮮牛肉のニーズが高いことから、食肉用としての生体牛の需要が大きくなっている。
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【調査情報部 令和5年3月15日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527