オランダ州議会議員選挙(注1)が3月15日に行われ、農民市民運動党(BBB)が記録的な勝利を収めた。BBBは、同国のルッテ首相率いる与党・中道右派の自由民主国民党(VVD)の10議席を上回る16議席を獲得し、上院の第一党となった(表)。
BBBは2019年の結党当初から窒素排出規制を大きな焦点とし、同規制の緩和に向けた見直しに注力してきた。今回の選挙結果で同党を支持する票が数多く集まったことは、オランダ政府が進める窒素排出規制にとって逆風となる。
現在、下院では与党が過半数を占めているが、上院は複数政党および連合左派との連立により、過半を維持している状況にある。今回の選挙結果により、BBBは与党以外の政党との連携により多数派の形成も可能なことから、連立交渉の結果によっては情勢が大きく変化し、規制の実施に影響が及ぶとの指摘も出ている。
オランダ農業園芸組織連合会(LTO)は3月16日、BBBの地滑り的勝利は有権者が窒素排出規制の見直しと農業分野への支援を支持している証拠であり、同国政府は窒素排出規制をはじめとする各種農業政策を見直す必要があるとの声明を発表している。
(注1)オランダ州議会議員は4年に1度選出され、同州議会議員による間接選挙によって上院議員が選出される。よって、各政党の上院議員数は各政党の州議会議員数によって決定される。
立法過程において上院は、下院が提出した法案を審議し採決する。法案提出前の議論への参加や、法案審議中に大臣の答弁を引き出すことにより、法案の内容や実行面に影響を与えることが可能。
最高行政裁判所の機能を有するオランダ国務院は2019年、オランダ政府に対し、同国の窒素排出がEU規制に違反しており、過剰な窒素排出を許可すべきでないと判断した。これにより、農畜産業のほか、大規模宅地造成、高速道路や港湾整備など多くの経済活動が窒素排出規制
(注2)の制約を受けるようになった。
畜産部門では、自主的な離農や経営規模の縮小だけでなく、政府による強制的な家畜頭数の削減も示唆されたことから、農業生産者は大規模なデモなどで反発してきた。さらに、アンモニアなど窒素化合物の大気への排出量を30年までに半減させる目標を掲げるとともに目標達成のために家畜頭数の3割削減が必要とした22年6月の試算結果の発表から、大規模な反対運動が続いていた。
BBBは、酸性化した土壌への石灰散布などの対策により、経営規模を縮小させることなく、窒素排出の抑制が可能と主張している。
(注2)畜産の情報「オランダ養豚における家畜排せつ物処理の取り組み〜持続可能な養豚のために〜」、海外情報「オランダ政府による養豚生産者への廃業支援策で278戸が廃業へ(EU)」および海外情報「オランダ政府、窒素排出量削減に向け家畜生産権などの買取り等を検討(EU)」を参照されたい。