イタリア農業・食料主権・森林省は3月28日、いわゆる「培養肉」などの細胞性食品(生物の細胞をその生物の体外で人為的に培養して得られた食品)の製造・販売を禁止する法案が閣議で承認されたことを公表した。この法案は、同国の食文化など保護のため、脊椎動物に由来する細胞や組織培養物から分離・生産された食品や飼料の製造、販売などを禁止する内容となっている。同法案が国会で可決されれば、違反した場合、最高で6万ユーロ(883万円:1ユーロ=147.22円(注))の罰金が科せられる可能性がある。
(注)三菱UFJ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年3月末TTS相場。
メローニ首相率いる右派政党「イタリアの同胞」の幹部でもあるロロブリジーダ農相は、「実験室で作られる製品は、品質、健康、文化や伝統の保護を保証するものではない」とし、「(細胞性食品を)忌み嫌うものではなく、(文化や伝統などを)保護したいという強い願いがある」と述べた。
メローニ首相は、イタリアの食文化を、悪影響を及ぼすような技術革新から守ると宣言し、政権発足後の2022年11月に農業・食料林業政策省を農業・食料主権・森林省と改称した。また、同法案が閣議で承認される前の23日には、コオロギなどの昆虫由来の粉を使用した食品にはラベル表示が必要となる法案が可決されている。
イタリア国内では、細胞性食品に対する政府の対応について農業団体などからは称賛する声がある。現地情報によると、イタリアでは8割以上の人々が実験室で作られた食品に反対しているという調査結果もあり、この動きは大多数のイタリア人の意向に沿ったものであるとしている。一方で、欧州全域で細胞由来の農産物の開発を支援する団体や動物愛護団体からは批判の声が上がっている。植物ベースの代替タンパク質や細胞性食品の生産を支持するNGO団体グッドフードインスティテュートヨーロッパ(GFI Europe)のレイベンスクロフト代表は、「このような法律が成立すれば、新たな分野の経済可能性を閉ざし、科学の進歩や気候緩和の努力を妨げ、消費者の選択肢を制限することになるとともに、他の欧州の国々や世界が、より持続可能で安全な食料システムに向けて前進している中で、イタリアは取り残されることになる」と述べた。