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政府がアフリカ豚熱侵入による養豚業への影響試算を公表(豪州)

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 豪州農業資源経済科学局(ABARES)は2023年3月、豪州の飼育豚や野生豚でアフリカ豚熱(ASF)が発生した場合の同国養豚業への影響試算を公表した。ASFは、ASFウイルスが飼育豚や野生豚(イノシシを含む、以下同じ)に感染することにより、発熱や出血性の病変を引き起こす致死率の高い伝染病である。現在、豪州で同疾病の発生は確認されていないが、パプアニューギニアや近隣アジア諸国での発生が確認されていること、また、ASFに有効なワクチンや治療法はなく、発生国における養豚産業への経済的影響が甚大であることから今回新たに試算された。
豪州の養豚産業(注1)は、南オーストラリア州、クイーンズランド州、ビクトリア州が主産地となっており、2018/19年度(7月から翌6月)は豪州全体で12億2200万豪ドル(1120億円:1豪ドル=91.69円(注2))の生産額となっている(表1)。

(注1)豪州養豚産業における概要は、海外情報「畜産の情報2021年12月号:豪州養豚産業の概要と近年の取り組み(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001871.html)」を参照されたい。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年3月末TTS相場。
表1 養豚業の概要
 他方で豪州国内の野生豚は、18世紀末頃に欧州からの入植者によって持ち込まれた飼育豚が野生化したものや狩猟用などとして持ち込まれたイノシシの子孫とみられており、20年時点の総頭数は240万〜400万頭と推定されている。豪州の一部地域では野生豚による食害などの被害が多発するなど高密度に存在していると考えられることから(図)、野生豚はASFの定着および拡散の両方のリスク要因になると懸念されている。
図 野生豚被害図
 既にABARESは22年初頭、今後5年間の同国でのASF発生確率を21%と公表しているが、今回の試算では、仮にASFが豪州で発生・流行した場合、1億100万豪ドル(93億円)から、最大で25億4000万豪ドル(2329億円)の対策コストが必要としている(表2)。
表2 対策コスト
 これに対し同国のマレー・ワット農業相は、「豪州でASFが発生した場合には多額のコストを要することになるため、連邦政府としてはASFの侵入を未然に防ぐべく、バイオセキュリティシステムの強化に向けた予算(1億3400万豪ドル:123億円)を確保している(注3)」と述べている。

(注3)詳細は、海外情報「新政権がバイオセキュリティ強化などの予算案を公表(豪州)」を参照されたい。
 同国の養豚業界団体であるオーストラリアン・ポーク・リミテッド(APL)はASF発生の懸念に対し、「豪州養豚産業は、生産量の9割を豪州国内向けに供給しており、ASFの蔓延(まんえん)は、国民の食料安全保障に深刻な影響を与えるものである」として、警戒感を高めている。
【調査情報部 令和5年4月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530