欧州委員会、生乳・乳製品の短期的需給見通しを公表(EU)
欧州委員会は2023年3月30日、農畜産物の短期的需給見通し(注)を公表した。このうち、生乳・乳製品の需給見通しの概要について紹介する。
(注)欧州委員会は、農畜産物の短期的需給見通しを年3回(3月、7月、10月)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。
生乳生産
2022年の生乳出荷量は、前回10月時の見通しでは前年比0.5%減と見込まれていたが、22年第4四半期の生産量が増加したことから、前年並みの1億4465万トン(推定値)となった。記録的に高騰した乳価により生産者による経産牛の淘汰が当初の予想よりも進まなかったことで、生産量の増加に繋がったとしている。
しかし、23年に入り状況に変化が生じつつある。22年を通じて上昇し続けた乳価は23年1月から下落に転じている。また、飼料費などの生産コストの高止まりに加え、牛肉価格の高騰から経産牛の淘汰が進みつつある。このため、23年12月時点の経産牛飼養頭数は同1.0%減の1960万頭と予測される。ただし、22年は夏の猛暑とその後に干ばつが続いたが、23年の天候は平年並みとすると、1頭当たり乳量の増加(同0.8%増)が見込まれるため、飼養頭数減少による影響の一部は相殺され、23年の生乳出荷量は同0.2%減の1億4437万トンと予測される(表1)。
バターおよび脱脂粉乳
前回10月時の見通しでは、2022年のバター生産量は前年比1.2%減、脱脂粉乳の生産量は同2.0%減と見込まれていたが、22年9月以降の生乳出荷量が前年同期を上回って推移していたことから、バターや脱脂粉乳に仕向けられる生乳が増えてバターの生産量は同0.1%減の230万9000トン、脱脂粉乳の生産量は同0.7%増の143万8000トンと上方修正された(表2、表3)。食品のインフレが進むEUでは、乳製品価格が高騰し、特に22年のバター価格は大きく上昇した。欧州委員会によると、消費者は消費量を減らすのではなく、プライベートブランドなど、より安い製品へ移行しているという。バター価格の推移を見ると、22年秋をピークにその後下落に転じている。
23年のバターと脱脂粉乳の生産量については、バターは230万5000トン、脱脂粉乳は143万5000トンと共に前年比0.2%減と予測される。ただし、中国の需要回復と英国および米国の安定した需要により、23年のバター輸出は同2.0%増と予測される。さらに、現在の価格の下落傾向が続けば、国内消費量は安定して推移し、同0.1%増となるとしている。また、脱脂粉乳の輸出は、同8.0%増とかなりの程度の増加が見込まれる。欧州委員会によると、これまで価格競争力および地理的要因などから他の輸出国のシェア(市場占有率)が増えていた東南アジア向けについては価格の低下に伴い競争力を増し、増加すると予測される。また、域内および域外からの需要増の一部は、22年に増加した在庫分で補われるとしている。
チーズおよびホエイ
2022年のチーズ生産量は、前回10月時の見通し同様、前年比0.5%減の1070万トンと見込まれる(表4)。世界的にチーズ需要は安定しているが、中国の需要が落ち込んだことなどによりEUの輸出量は同3.3%減少すると見込まれている。また域内市場では、バターと同様、消費者はより安価なチーズの購入へと移行しているため、消費量は同0.3%増と見込まれるが、生産量の減少については在庫分で一部補っているという。
23年のチーズの生産量は前年比0.7%増の1078万トン、ホエイの生産量は同1.0%増の217万トンとしている(表4、表5)。23年の生乳生産は0.2%減と予測されているものの、天候の回復により乳脂肪分と乳タンパク質含有量が増加し、加工向け生乳の供給量は安定して他製品よりも付加価値の高いチーズ生産に仕向けられるとしている。
また、中国の需要が回復することで、チーズの輸出は同2.0%増、域内消費は前年並みの同0.2%増と見込んでいる。さらに、22年のホエイの輸出量は、中国の需要減少により同7.3%減とかなりの程度減少したが、23年は中国の需要回復が見込まれていることから同4.5%増と予測している。一方、22年の域内ホエイ消費量は、主に飼料用として増加(同2.4%増)したが、23年は家畜頭数の減少などにより同0.5%減と予測している。
【上村 照子 令和5年5月10日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397