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欧州委員会、ウクライナからの一部農産物の輸入を一時停止(EU)

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 欧州委員会は5月2日、ウクライナと国境を接する加盟国であるポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアと近隣の加盟国であるブルガリア(以下これらを総称して「近隣5カ国」という)が、ウクライナ産農産物4品目(小麦、とうもろこし、なたね、ひまわりの種)の輸入を一時的に停止すると発表した。輸入停止期間は5月2日から6月5日となるが、近隣5カ国を経由してEU加盟国を含む他国に輸出される場合には適用されない。
 また、欧州委員会は5月3日、上記4品目の生産者に対する影響を緩和するため、近隣5カ国に対し1億ユーロ(約150億円:1ユーロ=149.54円(注1))の財政支援策の実施を提案した。この対策については、近隣5カ国が2倍の予算を上乗せすることが可能となっており、最大3億ユーロ(約450億円)の予算規模とすることができる。
 これらの措置と引き換えに、近隣5カ国は独自に設定していたウクライナ産農産物(上記4品目以外の品目含む)に対する輸入制限措置を撤回するとしている。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2023年4月末TTS相場。

背景

 欧州委員会は2022年5月、ロシアのウクライナ侵攻により停滞するウクライナ産農産物輸出への対応およびウクライナへの支援の一環として、連帯レーンの設置およびウクライナ産農産物に対する輸入関税の一時停止を発表した(注2)
(注2)海外情報「欧州委員会、ウクライナ産農産物の輸出支援策を発表(EU)」を参照されたい。
 
 これらの対策により、2022年第3〜第4四半期(ひまわりの種は域内の植物油価格上昇を受けて第2四半期)以降、EUではウクライナ産穀物や油糧種子の輸入量が大きく増加している(図1〜4)。一方でウクライナ産農産物の流入により、近隣5カ国では農産物価格が低迷していた(図5(ポーランドの小麦およびとうもろこし週別価格))。また、滞留したウクライナ産農産物により自国内の貯蔵施設や物流が圧迫され、生産者の不満が生じていた。このため、これら国々は、自国向けのみならす、自国を経由して他国に輸出されるウクライナ産農畜産物を対象とした輸入制限措置を独自に発表しており、欧州委員会はその対応について懸念を示していた。
表1
図2
図

関係者の反応

 近隣5カ国は5月5日、オンラインによる会合を開催し、欧州員会に対し財政支援策への増額と輸入停止期間を6月5日以降も延長することを求めた。また、ポーランド政府は、他国向けの農産物が自国を経由する際に、仕向け先がポーランドに変更されないよう厳重に監視を行うとともに、小麦粉、鶏肉、卵、リンゴジュース、果実といった他品目の輸入動向についても引き続き注視するとした。
 一方、ウクライナのタラス・カチュカ経済副大臣は、5月4日に開催されたブリュッセル経済フォーラムにおいて、今回の欧州委員会の決定は現状を改善するものではあるが、問題を根本的に解決するものではないとの認識を示した。また、ウクライナ産農産物が欧州や欧州を経由して他国に自由に滞りなく輸出することができるよう、輸入制限措置の撤廃を求めた。
 欧州の植物油脂・油糧粕の貿易企業を代表する欧州油脂・油糧粕協会(FEDIOL)は5月2日、加盟国が独自に貿易を制限している現状から脱却し、単一市場を維持するために例外的な措置が必要であったことに理解を示す一方で、今回の輸入停止措置が、戦争中のウクライナに対し間違ったシグナルを送ったと非難する声明を発表した。また、植物油の原料である油糧種子は今回の輸入停止措置の対象となる一方、製品であるひまわり油やなたね油、油糧粕は対象外とされたことで、域内の搾油企業は不公平な条件の下で競争を強いられることになると懸念を示した。

今後の見通し

 今回の輸入停止措置は、加盟国間や関係者内でも意見が分かれているが、欧州委員会は、ウクライナ産農畜産物に対する輸入関税停止措置が期限を迎える6月5日以降について、輸入関税停止措置を延長する意図があるものの、その際には、輸入急増時のセーフガードといった新たな対策の導入を検討するとしている。6月以降、EUによるウクライナ産農畜産物に対する措置が随時変更される可能性があり、現地報道では新たにウクライナ産鶏肉に対する輸入規制も検討されていると伝えられている。
【調査情報部 令和5年5月19日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527