畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2023年 > ウクライナ産農畜産物の輸出動向〜黒海穀物イニシアティブの停止〜

ウクライナ産農畜産物の輸出動向〜黒海穀物イニシアティブの停止〜

印刷ページ

ロシアが黒海穀物イニシアティブからの離脱を表明

 国連のグテーレス事務総長は2023年7月17日、ロシアが黒海穀物イニシアティブ(注1)の延長(注2)に合意せず、離脱を表明したことを公表した。
 同事務総長は、同イニシアティブにより、これまで3200万トンを超える食料品の安全な通行を保証してきたことや、国連世界食糧計画(WFP)を通じてアフガニスタンやアフリカの角(エチオピア、エリトリア、ジブチ、ソマリア、ケニアの各国が含まれる地域)など厳しい食糧事情にある地域に72万トン以上の穀物を輸送し、人道支援を行ってきたと発言した。また、同事務総長は、同イニシアティブの延長に向け、同イニシアティブと並行して締結された覚書により、ロシアの穀物および肥料の輸出量が回復しつつあるなどとした書簡をプーチン大統領に送っていたことを明らかにした。しかし、これらの取り組みが功を奏さなかったことで、今回のロシアの離脱表明に対し同事務総長は、深く失望したとの声明を出した。
 
(注1)22年7月22日、ウクライナとロシアは国連とトルコの仲介の下、ウクライナのオデーサ港(近港のチョルノモルスク港とイズニー港を含む)からの穀物と肥料の安全な輸出航路の確保に関する「黒海穀物イニシアティブ」に署名し、これに基づき輸出を共同で進める共同調整センターを設置。
(注2)同イニシアティブのこれまでの延長については、海外情報「ウクライナ産農畜産物の輸出動向〜黒海穀物イニシアティブの延長〜」等を参照されたい。

ウクライナの反応と同国産農畜産物の輸出状況

 現地報道によると、ウクライナのヴァスコフインフラ大臣代理は、同イニシアティブ下であっても、オデーサ港(近港のチョルノモルスク港とイズニー港を含む)への入船が1日に1〜2隻程度であったことに言及した。これまでもウクライナは、同イニシアティブに基づいてトルコのイスタンブールに設置された共同調整センター(JCC)での検査が、ロシアによって遅延させられていることを度々非難していた。
 同イニシアティブの停止に関し、現在、ロシアの関与がなくとも、トルコ、国連およびウクライナの協力により、黒海回廊の開放を継続するといった代替案も検討されている。
 同イニシアティブ開始後の2022年8月〜23年4月のウクライナのトウモロコシ、小麦、大麦の輸出量は、19年〜22年の同期間平均比3.8%減の3994万トンであった(図)。同国の穀物輸出については、黒海穀物イニシアティブのほか、欧州委員会の輸入関税停止支援も含めた連帯レーン(注3)も活用されており、22年8月〜23年4月の輸出量のうち、連帯レーンを利用したポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアと近隣のEU加盟国であるブルガリア(近隣5カ国)向けは、1130万4000トンと全体の3割弱を占めている。
 
(注3)連帯レーンについては、海外情報「欧州委員会、ウクライナ産農産物の輸出支援策を発表(EU)」を参照されたい。
図 ウクライナ産穀物の輸出量の推移

世界のトウモロコシ需給

 米国農務省世界農業観測ボード(USDA/WAOB)および米国農務省海外農業局(USDA/FAS)が2023年7月12日に公表した2023/24年度の世界のトウモロコシ需給予測(注4)によると、米国の生産量は、作付面積の上方修正を受けて3億8915万トン(前年度比11.6%増)と過去最高が見込まれている。
 なお、同需給予測によるウクライナの同年度(23年10月〜24年9月)のトウモロコシ生産量は、前年度比7.4%減の2500万トンとされ、世界全体の2.0%を占める。また、輸出量については、前年度比30.4%減の1950万トンと世界全体の9.8%を占めると見込まれている。
 
(注4)トウモロコシ需給予測について詳細は、海外情報「米国農務省による世界および米国のトウモロコシ需給予測(2023年7月)」を参照されたい。
【渡辺 淳一 令和5年7月19日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527