森林破壊防止のための調査の義務化に関する規則が発効(EU)
EUの森林破壊防止を目的とした、調査(デューディリジェンス:Due Diligence)の義務化に関する規則が6月30日に発効した。対象品目は、パーム油、牛肉、木材、コーヒー、カカオ、ゴム、大豆の7品目および皮革、チョコレート、家具、印刷紙などの派生製品となる。これらをEUに輸入、あるいはEUから輸出するすべての事業者について、大企業には2024年12月30日から、小規模企業
(注1)は25年6月30日から規則が適用される。これによりEUから日本への牛肉などの輸出のみならず、日本からの牛肉の輸出も規則の対象になる。
(注1)小規模企業とは、a)総資産の合計が400万ユーロ(6億3640万円:1ユーロ=159.1円(注2))以下、b)純売上高が800万ユーロ(同12億7280万円)以下、c)会計年度平均の従業員数が50人以下、の条件を2つ以上満たす企業(欧州議会・理事会指令2013/34/EU第3項)
(注2)三菱USJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年6月末TTS相場。
(参考)海外情報「域外産牛肉などを供給する業者に対する森林破壊防止を目的とした規制強化規則案に合意(EU)」参照のこと。
規則で求められる主な内容
対象製品をEU市場に供給するまたはEUから輸出する企業は、事前に、その製品が2021年1月以降に森林破壊によって開発された農地で生産されていないこと、また、生産国の関連法令(注3)を順守していることを確認し、デューディリジェンスを実施し、加盟国政府にその結果を届け出る必要がある。
デューディリジェンスの主な内容は、(1)必要な情報の収集・提供・保管、(2)リスクアセスメントの実施、(3)その結果、リスクが存在すると判明した場合はリスクを軽減させる措置−である。
(注3)生産国の関連法令の分野としては、土地利用、環境保護、森林保全、対象製品の取引関係者以外の第三者の権利保全、労働者保護、国際法で保護されている人権、先住民の権利、租税、汚職防止、貿易及び関税となる。
デューディリジェンスの詳細
(1)については、製品名や数量、生産地の位置情報、製品が森林破壊を伴わず、法令を遵守して生産されていることを示す情報などを収集し、加盟国政府へ提供することとなる。
(2)については、(1)で収集した情報について、当該製品が非準拠となるリスクがないか無視できる程度であるか、生産国における森林減少の程度などを考慮しながら分析・検証を行うこととされている。
(3)については、リスクを軽減する措置として、追加的な情報の収集、独立した監査の実施の他、サプライヤーに対する能力開発支援や投資による教育措置などが挙げられる。
国別のリスク評価
国別(またはその一部の地域)の森林破壊リスクについてはレベル分けが行われ、「高リスク国」には監視を強化する一方、「低リスク国」についてはより簡素化したデューディリジェンスが実施可能とされている。低リスク国に分類された場合、リスクアセスメントの実施、リスクが存在する場合のリスクを軽減させる措置を省略することが可能となる。ただし、欧州委員会が国別のレベル分けを定めるまでは、すべての国が標準リスク国として扱われる。この、国別のリストは2024年12月30日までに定められることとされている。
規則の定期的な見直し
本規則については、定期的に見直しを行うことが規定されており、まず、欧州委員会は2024年6月30日までに、規則が適用される森林の定義を拡大するかどうかを含め、影響評価を実施することとされている。
また、欧州委員会は25年6月30日までに、必要に応じて本規則の適用範囲を、炭素蓄積量が多く、生物多様性の価値が高い草原、泥炭地、湿地などの土地や、とうもろこしを対象品目に含めるかの評価を実施することとされている。同見直しでは、派生製品にバイオ燃料を含めるかも検討される。
これら以外にも、28年6月30日までの期間およびその後少なくとも5年に一度の見直しを行うとされている。
各業界の反応
欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa Cogeca)など欧州の36団体は、2023年5月25日に同規制に対する懸念を示す共同声明を発出している。この中で、EU域内で統一したルールが適用されること、企業が直接関与していない状況下で発生した損害には責任が問われないようにすること、企業に対する訴訟が乱発されないことなどを求めている。
【調査情報部 令和5年7月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527