米国では消費者のアニマルウェルフェアへの関心の高まりなどを背景に、母豚のストールや飼養面積について法規制を設けている州が2023年7月時点で10州ある
(注1)。それら10州では、主に四肢の伸展や身体の向きの変更を可能とする飼養面積の確保を規定しているが、その中でもカリフォルニア州およびマサチューセッツ州においては、飼養基準を満たさない母豚に由来する豚肉の販売を禁止する規制を設けている。本稿ではカリフォルニア州法の施行状況について報告する。
(注1)米国におけるアニマルウェルフェアについての詳細は、
「畜産の情報」2022年8月号「米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの対応について」を参照されたい。
(1)これまでの流れ
カリフォルニア州では、2008年に「母豚の横になる、立ち上がる、四肢を伸ばす、支障なく回転するといった動きを制限しないこと」などを規定する州法第2号が制定され、15年1月1日に施行された。18年には本州法を強化する形で「少なくとも24平方フィート/頭(2.2平方メートル/頭)の飼養面積を確保すること」、「飼養基準を満たさない母豚に由来する未調理・未加工の豚肉製品の販売を禁止すること」などを規定する州法第12号が制定された(表1、2)。本州法は22年1月1日に施行されたが、同州食品農業局による生産者に求める具体的なルールを定める施行規則の公布の遅れから、同州高等裁判所が同月24日に同法の施行停止を決定した
(注2)。
また、州法第12号をめぐっては、全米豚肉生産者協議会(NPPC)およびアメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)が州際通商(州間商取引)条項に違反するとして施行停止を求めて提訴していたが、地方裁判所および控訴裁判所による棄却を経て、連邦最高裁判所において審理が行われた結果、23年5月にこの提訴は棄却された。
(注2)カリフォルニア州法第12号をめぐる係争については、以下についても参照されたい。
・母豚の飼育環境の規制強化に係るカリフォルニア州法の施行が迫る(米国)
・母豚の飼育環境規制強化に関するカリフォルニア州法の施行が停止(米国)
・母豚飼養基準などに関するカリフォルニア州法を巡る裁判、口頭弁論を開催(米国)
・母豚の飼養基準などカリフォルニア州法をめぐる裁判、業界の訴えを棄却(米国)
(2)州法の施行状況
同州食品農業局は22年9月1日に施行規則を施行し、23年7月1日をもって、同州高等裁判所による施行停止の効力は消失した。つまり、同月2日以降、飼養基準を満たさない母豚に由来する豚肉を同州内で販売することが禁止されることとなった。しかし、同州高等裁判所は23年6月16日、飼養基準を満たさない母豚に由来する豚肉であっても、既にと畜・食肉処理されている豚肉については同年12月31日まで販売を継続可能な猶予期間を設ける決定を下した(表3)。なお、同年7月1日以降にと畜・食肉処理が行われる豚については規制が適用されている。
本決定について、NPPCのハンフリーズCEOは「既にサプライチェーンに乗っている豚肉に対して猶予期間が与えられたことは歓迎すべき決定である。食品価格が高騰する中、食料品店が在庫を確保することで、カリフォルニア州の人々が手頃な価格で安全かつ高栄養価の豚肉製品を途切れることなく購入可能になる」との声明を発出した。