米国では消費者のアニマルウェルフェアへの関心の高まりなどを背景に、母豚のストールや飼養面積について法規制を設けている州が2023年7月時点で10州ある
(注1)。それら10州では、主に四肢の伸展や身体の向きの変更を可能とする飼養面積の確保を規定しているが、その中でもカリフォルニア州およびマサチューセッツ州においては、飼養基準を満たさない母豚に由来する豚肉の販売を禁止する規制を設けている。本稿ではマサチューセッツ州法の施行状況について報告する。
(注1)米国におけるアニマルウェルフェアについての詳細は、
「畜産の情報」2022年8月号「米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの対応について」を参照されたい。
(1)これまでの流れ
マサチューセッツ州では、2016年に「母豚の横になる、立ち上がる、四肢を伸ばす、支障なく回転するといった動きを制限しないこと」、「飼養基準を満たさない母豚に由来する未調理・未加工の豚肉製品の販売を禁止すること」などを規定するマサチューセッツ州法第3号(以下「州法第3号」という)が制定された(表1、2)。本州法は22年1月1日に施行予定であったが、豚肉流通に大きな懸念が生じ得ることから、同年8月15日まで施行を延期することとされた。
さらに、施行日が近づいた同年8月3日には、全米豚肉生産者協議会(NPPC)、全米レストラン協会(NRA)、同州レストラン協会(MRA)などの複数の業界団体が州際通商(州間商取引)条項に違反するとして施行停止を求め、同州農業資源局長官を提訴した。その結果、当事者間での合意に至ったこと、同様の規制を設けているカリフォルニア州法第12号(以下「加州法第12号」という)の州際通商条項に係る違憲性について連邦最高裁判所の審理が始まることを考慮し、マサチューセッツ州連邦地方裁判所は、州法第3号のうち豚肉の州内販売に係る規定について施行の延期を決定した
(注2、3)。この延期措置は加州法第12号に関する連邦最高裁判所の判決から少なくとも30日後まで有効とされた。
(注2)マサチューセッツ州法第3号をめぐる係争については、
「マサチューセッツ州、飼養基準に従わない豚肉販売禁止の州法施行を一時停止(米国)」も参照されたい。
(注3)カリフォルニア州法第12号をめぐる係争については、以下についても参照されたい。
・母豚の飼育環境の規制強化に係るカリフォルニア州法の施行が迫る(米国)
・母豚の飼育環境規制強化に関するカリフォルニア州法の施行が停止(米国)
・母豚飼養基準などに関するカリフォルニア州法を巡る裁判、口頭弁論を開催(米国)
・母豚の飼養基準などカリフォルニア州法をめぐる裁判、業界の訴えを棄却(米国)
・母豚の飼養基準と販売を規制する州法の動向(その1:カリフォルニア州)(米国)
(2)州法の施行状況
連邦最高裁判所は2023年5月、加州法第12号の施行停止を求めた提訴を棄却した。これにより、州法第3号の施行停止措置は同年7月12日をもって消失する予定であった。
しかし、NPPCやニューイングランド地方の各州レストラン協会が、マサチューセッツ州当局とともに、他州への流通まで妨げないよう準備期間が必要であるとして、同年8月23日までの施行延期をマサチューセッツ州連邦地方裁判所に求めた。加州法第12号では食品加工施設、小売事業者、レストランなどの「エンドユーザー」や、「エンドユーザー」に豚肉を販売する「豚肉流通事業者」などに規制対象を限定している一方で、州法第3号では販売行為全般を規制対象にしている。そのため、マサチューセッツ州内に多く存在し、ニューイングランド地方への流通ハブとなっている倉庫事業者なども規制対象となりかねないという。
同裁判所は8月23日までの施行延期を決定した。それまでの間に、マサチューセッツ州当局は他州への流通を妨げないように施行規則と流通事業者向けのガイダンスの準備を進めるという。