米農務省、農林業における温室効果ガスの定量化に3億米ドルの予算措置(米国)
米国農務省(USDA)は7月12日、インフレ抑制法
(注1)に基づき、気候変動に配慮した農林業における温室効果ガス(GHG)排出と炭素隔離の測定、モニタリング、報告、検証(MMRV:Measurement, Monitoring, Reporting and Verification)の改善に向けて8年間で3億米ドル(437億9700万円:1米ドル=145.99円
(注2))を措置することを発表した。同措置は、同日に発表された「農業・林業分野のGHG測定・モニタリング促進のための連邦戦略」(以下「連邦戦略」という)における優先事項を推進するものとされる。USDAは同21日にウェビナーを開催し、MMRVの改善と連邦戦略について説明を行い、両者はこれまで米国が示してきた「2050年までにGHG排出量正味ゼロ経済の達成」、「2030年までにGHG排出量の05年比50〜52%削減」という目標の達成に向けた取り組みを推進するものであるとした。
(注1)海外情報「インフレ抑制法案が成立、農業気候変動対策に大規模予算措置(米国)」を参照されたい。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年6月末TTS相場。
1 農業・林業分野のGHG測定・モニタリング促進のための連邦戦略
連邦戦略は、MMRVの改善に向けた道のりを示すものとして策定され、国、地方、事業体の三段階においてGHG排出量の推計値を改善することとしている。また、その対象には家畜の他、草地、耕作地、森林が設定されている。家畜から排出されるGHGとしては、消化管内発酵由来のメタン、家畜排せつ物由来のメタンと亜酸化窒素、放牧地由来のメタンが主な対象とされている。
また、連邦戦略には優先事項として、(1)科学・研究、(2)モデル・方法・手段、(3)データの数値や種類、(4)モニタリング・検証、(5)報告・分析が位置付けられ、それぞれの項目に目標が設定されている(表)。
USDAによると、これらの優先事項と目標を遂行するために、自然資源保全局(NRCS)、農業研究局(ARS)、経済調査局(ERS)、全国農業統計局(NASS)、チーフエコノミスト事務所/エネルギー・環境政策室(OCE/OEEP)といった関係部局が連携して取り組むこととされている。
2 MMRVの改善に向けた予算措置
今般、連邦戦略の優先課題に基づき、USDAは以下の7項目の取り組みに8年間で3億米ドル(437億9700万円)の予算を措置することとした(図)。
(1)GHG排出量削減の反映に要するNRCSの保全手法の基準・データの改善
NRCSの保全手法の基準・データや研修・技術指導を改善することでGHG排出量削減を図るとともに、NRCSによる排出量削減成果の推定の精度を高める。
(2)土壌炭素モニタリング・研究ネットワークの構築と推進
多年生バイオマス作物を含む炭素貯留に関する現場ベースのデータを収集する。
(3)GHG研究ネットワークの構築と推進
肉用牛や乳用牛の生産、畜舎、肥料使用や作物生産に関連した農地からのGHG排出量などのデータを収集する。
(4)保全活動データの時間的・空間的範囲の改善
GHGインベントリ(注3)に使用するためのデータの収集・発信を迅速化し、実態との乖離を解消する。
(注3)一つの国が1年間に排出・吸収するGHGの量を取りまとめたデータのこと。世界全体や各国における温室効果ガス排出量を把握するために各国において作成。
(5)データ管理インフラの拡大と管理能力の向上
収集データを最大限に活用するため、データの収集、メタデータの活用、データ処理、管理、セキュリティ、集計に関する基準を設定するとともに、データの互換性を高めることでインフラを強化する。
(6)成果に対する評価モデル・ツールの改善
既存の評価モデル・ツールの改善に取り組むとともに、急速に進歩する科学分野において最先端の技術を維持するために複数のモデルを比較・検討する。
(7)GHGインベントリと評価プログラムの推進
改善されたデータや評価モデルなどのMMRVの改善を米国のGHG活動報告であるGHGインベントリに反映させる。
USDAのウェビナーにおいて、OCE/OEEPのホーエンシュタイン室長は、「MMRVの改善は、生産者の取り組みや新技術の導入を通じてGHG排出量の削減量という数値に対する信頼性を高めるために重要である」と述べた。数値の信頼性を高めることにより、民間による気候変動に配慮した商品の購入や投資、任意のカーボン・オフセットへの参入、再生可能エネルギーへの投資などの活性化につなげる狙いがあるとされている。
【調査情報部 令和5年7月31日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部)
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