米国養豚業界、生産コストの高騰および需要減に直面(米国)
米国農業分野の信用供与機関で金融サービスを提供するコバンク(CoBank)は7月27日、米国養豚業界が抱える課題について報告書を公表した。同報告書によると、米国養豚業界は、生産コストの高騰、消費の停滞、輸出需要の減少といった三つの大きな課題に直面しており、養豚生産者は例年以上の逆境に立たされているという。これらの課題について、7月9日から12日まで開催された全米豚肉業界会合(注1)において示された関係者の見解も踏まえて報告する。
(注1)全米豚肉業界会合(NPIC)は1996年に設立され、教育や交流を目的として毎年7月に開催。養豚業界関係者が一堂に会し、業界の最新情報を交換する。
1 生産コストの高騰
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)によると、生体豚100ポンド重量増に要する飼料コストは、2021年の34.63米ドル(4916円:1米ドル=141.97円(注2))から22年の44.06米ドル(6255円)(前年比27.2%増)へと大幅に上昇した。一方、100ポンド当たりの豚生体価格は、21年の66.31米ドル(9414円)から22年の71.23米ドル(1万113円)(前年比7.4%増)とかなりの程度上昇したものの、飼料コストの上昇には追い付いていない。飼料コストの指標となる「100ポンド当たりの豚生体価格に相当するトウモロコシの量(注3)」は、20年以降減少傾向にあり、飼料コストの上昇が生産者の収益を圧迫していることが分かる(図1)。
生産コストの高騰の要因はこれだけではない。豚房一つ当たりの豚舎建設費(元利金)は、設備投資に係る金利や建設費の上昇により、21年以降急上昇している(図2)。業界関係者によると、人件費や光熱費といった固定経費も上昇しており、養豚生産者の収益性は悪化し、生産意欲が減退しているという。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年7月末TTS相場。
(注3)生体豚価格も加味した相対的な飼料コストの指標として使われ、値が小さくなると飼料コストによる養豚生産者の負担が大きくなることを示す。
2 消費の停滞
新型コロナウイルス感染症の拡大(パンデミック)を受け、2020年から21年にかけて外食に制限が設けられたことで、当該期間における食品全般の内食需要が増加した。しかし、外食の本格的再開が始まった22年以降、内食需要は減少している。業界関係者によると、豚肉生産量の約3分の2を占めるベーコン、ソーセージ、ハムなどの豚肉加工品の消費は好調を維持しているが、内食で消費されることが多いロース肉などの生鮮豚肉製品は他の食肉製品と競合し、苦戦を強いられているという。
また、豚肉小売価格は20年から22年にかけて、パンデミックやインフレによる影響を受けて急上昇した。23年に入り下落しているものの、パンデミック前と比べると高値で推移している(図3)。しかし、小売価格に占める農場価格の割合は下落傾向にあり、小売価格の上昇が養豚生産者の収益につながっていない。(図4)。
以上のように、内食需要の減少と小売価格の高止まりを背景に、豚肉は牛肉や鶏肉と比較して消費量が伸び悩んでいる。22年の消費量をパンデミック前の19年と比較すると、牛肉および鶏肉の消費量がそれぞれ3.2%増および5.6%増と増加している一方で、豚肉は1.1%減と減少している(図5)。
3 輸出需要の減少
USDA/ERSによると、2022年の米国産豚肉生産量の23.5%が輸出に仕向けられている。これは米国産食肉の中で最も多い割合であり、米国産豚肉にとっては国内消費だけでなく輸出量の確保も極めて重要である。18年の中国におけるアフリカ豚熱(ASF)の発生の影響により中国の豚肉生産量が減少したため、19年から20年まで中国向けの輸出量は大幅に増加した。こうした要因などを背景に、20年の豚肉輸出量は過去最高となる297万6564トンを記録した。しかし、21年以降、中国における豚肉生産量の回復に伴い、豚肉輸出量は減少傾向にある(図6)。米国食肉輸出連合会(USMEF)によると、23年以降の豚肉輸出量は増加し、25年には20年の輸出量を超える見通しであるが、世界におけるASFの発生状況や中国の豚肉市場の需給動向に大きく影響するため、不確実性も残るという。
以上の生産コストの高騰、消費の停滞、輸出需要の減少といった課題は、米国養豚業界の成長の妨げになりかねない。業界としては、インフレや金利上昇などの経済状況が影響する消費行動や、ASFの発生状況が影響する輸出市場の動向に係る見通しが難しい中で、養豚生産者に、より合理的な農場運営やバイオセキュリティ強化も含めた生産性向上を求める声も上がっている。
【調査情報部 令和5年8月9日発】
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