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ウクライナ産穀物の輸出動向

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黒海穀物イニシアティブ終了後、ウクライナ産穀物の輸出量が減少

 ウクライナ農業政策食料省が8月初旬に公表した同国産穀物の輸出状況によると、7月17日のロシアの離脱による黒海穀物イニシアティブ(注1)の終了(注2)を受けて、2023年7月のトウモロコシ、小麦、大麦の輸出量は前月比38.1%減の229万トンとなった(図1)。このうち船舶による輸出量は、167万トン(同46.5%減)と前月を大幅に下回った。一方、鉄道による輸出は、49万トン(同4.6%増)と前月をやや上回った。
 このような中、同国のクブラコフインフラ農相は8月16日、香港籍のコンテナ船がオデーサ港を出港し黒海上の暫定的な航路を航行中であると公表した。民間船舶の航行を求めるこの暫定航路は同国政府により国際海事機関(IMO)へ申請され、IMO理事会はロシアに対しいかなる脅威も止め、国際条約を遵守するよう求めている。
 
(注1)22年7月22日、ウクライナとロシアは国連とトルコの仲介の下、ウクライナのオデーサ港(近港のチョルノモルスク港とイズニー港を含む)からの穀物と肥料の安全な輸出航路の確保に関する「黒海穀物イニシアティブ」に署名し、これに基づき輸出を共同で進める共同調整センターを設置。
(注2)海外情報「ウクライナ産農畜産物の輸出動向〜黒海穀物イニシアティブの停止〜」を参照されたい。
ウクライナ産穀物(トウモロコシ、小麦、大麦)の輸送手段別輸出量の推移

ウクライナ産穀物の輸出経路の模索

<黒海経由>
 ウクライナの隣国であるルーマニア(図2)は、ロシアの侵攻後ウクライナ産穀物を陸路で輸送する連帯レーン(注3)によりウクライナ産穀物4100万トンのうち2000万トン以上を輸送している。しかし、ルーマニアも穀物輸出国であるため、大量のウクライナ産穀物は穀物価格の低下につながり、ルーマニアの穀物生産者の不満を呼んだ。このため、ウクライナの近隣5カ国(ルーマニア、ポーランド、スロバキア、ハンガリーおよびブルガリア)はウクライナ産穀物の経由を除く自国への輸入を一時停止(注4)している。
 このような中、現地報道によると、ルーマニアのオドべスク外相は「ウクライナと緊密に連絡を取り合い、同国産穀物の輸送量と輸送頻度を増やす」と話しており、EU圏最大の黒海港であるコンスタンツァ港をさらに拡大している。
(注3)海外情報「欧州委員会、ウクライナ産農産物の輸出支援策を発表(EU)」を参照されたい。
(注4)海外情報「欧州委員会、ウクライナからの一部農産物の輸入を一時停止(EU)」を参照されたい。

 
<バルト海経由>
 現地報道によると、ラトビアはこのほど、ウクライナ産穀物の輸出を今秋開始する可能性があると公表した。年間50〜100万トンのウクライナ産穀物を受け入れ、バルト海から輸出する計画となる。しかし、ラトビア国鉄のプラウニクス会長は、ウクライナからポーランドを経由しラトビアまでの鉄道ルートは鉄道のレール幅の違いにより2回の積み替え作業が必要となることで、その費用が発生するとしている。
 ラトビア、リトアニア、エストニアのバルト三国の鉄道会社や港湾は、ロシアの侵攻後同国との取引を停止しており、ウクライナ産穀物を輸出物品として新たに取り扱うことで、この損失を補う算段もあるようだ。リトアニアも、ウクライナ産穀物の輸出に際しバルト海を利用するよう、EUに要請している。
 
<アドリア海経由>
 ウクライナのクレバ外相は7月31日、クロアチアのラドマン外相と会談し、ウクライナ産穀物の輸出に際しアドリア海に面したクロアチアの港の利用について合意した。計画では、ウクライナ産穀物はドナウ川(ルーマニア、セルビア)経由でクロアチアまで輸送され、同国内で積み替えられたのち、アドリア海から輸出される。クレバ外相は「我々はクロアチアの港への最も効率的な経路を確立し、この機会を最大限に活用する。クロアチアとの合意は、世界の食料安全保障に有効であり、同国の建設的な援助に感謝している」と述べた。
図2 ウクライナなどの位置
【渡辺 淳一 令和5年8月24日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527