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中国、豪州産大麦の関税を撤廃(豪州)

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 豪州政府は8月4日、ワット農相、ウォン外務相、ファレル貿易観光相の共同声明として、中国が2020年5月から豪州産大麦の輸入に課していた73.6%のアンチダンピング関税と6.9%の相殺関税で構成される80.5%の関税(注1)について、中国内の大麦市場状況の変化を理由に、翌5日から撤廃する旨の通知を中国商務省から受けたことを公表した。豪州の穀物業界団体であるグレイントレードオーストラリアなどの関係団体は、今般の中国による関税撤廃を歓迎する旨の声明を発表している。
 現地報道などによると、豪州の前政権時の新型コロナウイルス感染症をめぐる豪中間の政治的緊張を発端に、中国側が豪州産大麦に高関税を課したことで、豪州は21年3月に世界貿易機関(WTO)へ提訴を行っていた。22年5月の豪州連邦政府議会選挙による労働党政権への交代後は、中国との関係改善に向けて豪州から要人が訪中するなどしたことで、23年4月、中国側による豪州産大麦輸入に対する高関税の見直しと、豪州側によるWTO提訴の一時停止を行うことで合意していた(図1)。
図1 豪州産大麦の対中輸出をめぐるこれまでの経緯
 豪州産大麦に高関税が課せられる前の2017/18年度(7月から翌6月)には、最高15億3600万豪ドル(1473億9456万円:1豪ドル=95.96円(注2))もの豪州産大麦が中国向けに輸出されていたが、中国向け輸出が事実上停止した後は、サウジアラビアなど新規輸出先を開拓してきた(図2)。
 今般の中国の関税撤廃を受け、再び中国向け輸出の増加が予想されている。豪州の穀物生産者団体であるグレイングロワーズは、サウジアラビアは重要な大麦輸出先であるとしつつも、中国は地理的に豪州から近く、豪州産大麦を高く購入する傾向のあることから、徐々に輸出割合が回復するとみている。一方で現地報道によると、22年に行われた豪州貿易投資促進庁(オーストレード)のウェビナーに参加したサウジアラビア穀物団体の代表者からは、同国での穀物産業の民営化後、農業用水の使用制限などもあり、穀物の輸入需要が高まっているため、今後も豪州は最大の大麦供給源になるとの見解を示していた。
図2 中国の追加関税措置による豪州大麦の輸出先の変化
 他方で現地報道によると、中国の関税撤廃を受け、豪州国内では大麦価格が上昇しており、メルボルンでは1週間で1トン当たり40豪ドル(3838円)上昇したとしている。豪州ではここ数年、穀物の豊作が続いていたが、中国からの需要により、今後豪州国内や日本を含めた他の輸出市場への供給にどのような影響が出てくるのか注視されている。
 一部報道では、中国政府による今回の決定は、WTOの裁定草案を中国政府が受け取ったことをきっかけに関税撤廃に向けて動いたとしており、豪州のウォン外相も、二国間の紛争解決を促すWTOのシステムが機能した結果であるとしている。豪州は、中国による豪州産ワインに対するアンチダンピング制裁関税についてもWTOに提訴していることから、ファレル貿易観光相は、大麦の関税撤廃プロセスをワインにも適用させたいとしている。このほか、豪州の対中輸出においては、一部の食肉処理施設で生産される牛肉や羊肉、また、綿花や木材などに対する輸入制限など課題が残されている。

(注1)アンチダンピング関税とは、輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出が、輸入国の国内産業に被害を与えている場合に、その価格差を相殺するために課される関税。相殺関税とは、輸出国の補助金を受けた輸入貨物に対し、国内産業保護のために補助金額の範囲内で課される割り増し関税。なお、畜産の情報2023年7月号「豪州における近年の飼料穀物需給動向と見通し」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002811.html)の「3 大麦および小麦の需給動向」も参照されたい。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年7月末TTS相場。
【調査情報部 令和5年8月28日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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