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デニッシュ・クラウン社、経営合理化計画を公表(EU)

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 デンマークの食肉生産最大手デニッシュ・クラウン社は2023年8月、厳しい経営状況にある食肉処理・加工部門の強化のため、新たな経営合理化計画を公表した。この計画により、少なくとも15億クローネ(317億円:1クローネ=21.15円(注1))の経営改善が図られるという。

(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」2023年7月末TTS相場。

経営合理化計画策定の背景

 食肉処理・加工部門の経営状況が厳しくなっている背景には、主に中国、日本、米国などの主要市場への輸出が長期にわたって減少していることがあるという。これまでは主要輸出市場が不振となった場合でも、域外で代替販売ルートを確保してきたが、現在のように冷凍豚肉の国際相場が同国を含む欧州の生鮮豚肉価格を大きく下回っている場合、同社の競争力は維持できないとしている。
 また、生産コスト増による養豚農家の廃業や近隣国への生体輸出などで肉豚供給頭数が減少していることも要因の一つである。同社を含むデンマークの豚の取引価格は、欧州の他の国々より低い水準で推移しているため(図)、近隣国へ肥育用生体豚を生体重量30キログラム前後で輸出するケースもあり、国内での処理頭数の確保が課題となっている(注2)
 
(注2)海外情報「デニッシュ・クラウン社、デンマークの一部と畜場を閉鎖(EU)」を参照されたい。
図

経営合理化計画の内容

 同社のヴァリュールCEOは「2022年は逆風に見舞われたが、小売店や外食市場向け製品の市場シェア(占有率)を維持することができた。私たちは事業全体を長期的に回すため、販売量を増やす必要がある」と述べ、これまでの大規模な食肉工場から近代的な食品会社へ転換させるための経営合理化計画を同社の出資者に示した。
 同社は同計画を立案するに当たり、2年以内に少なくとも15億クローネ(317億円)の収益改善に向け、事業の合理化に加えて営業活動を細分化し、デンマーク産豚肉と同社製品を優先的に扱う顧客、あるいは持続可能性の取り組みを追求するビジネスパートナーを求める顧客に焦点を絞る必要があるとした。
同計画の主な内容は以下の通りである。
  • 管理部門とサポート部門を合理化し、年間コストを少なくとも2億5000万クローネ(約52億9000万円)削減
  • より効率的な最新設備を導入することで、と畜場および加工場の生産能力を向上させ、生産コストを5億クローネ(105億8000万円)削減
  • これまで取り組んできたトレーサビリティと持続可能性を求める顧客との関係構築を築くために、小売・外食産業の中核的顧客に焦点を絞った営業活動を行うことで5億クローネ(105億8000万円)の増益
  • ドイツの食肉処理事業と中国の加工場の黒字および英国の新しいベーコン加工場への投資完了により2億5000万クローネ(52億9000億円)の利益が出ると見込まれている
 さらに、グループ子会社による収益改善に加えて、調達業務の見直しによる経費削減により最大5億クローネ(105億8000万円)の利益が生まれる可能性があるとしている。
 
 同計画では、地場産品への強い嗜好を特徴とする競争の激しい欧州の市場で、より多くの販売を行うこととなる。それでも同社は、同国の高い生産コストを相殺するのに必要な高価格製品の生産と販売に全力を注ぐビジネスモデルの再構築が必要であるとしている。
 同計画は、同社の出資者に示されるとともに、計画の一環としてデンマークとドイツの食肉処理および加工を行う中核部門の経営体制の即時変更が予定されている。
【上村 照子 令和5年8月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397