2023年の農業所得は前年比大幅減も平均を上回る見込み(米国)
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)は2023年8月31日、2023年の農業所得見通しを公表した。これによると、農業現金所得(注1)は前年比26.5%減の1486億米ドル(21兆8742億円:1米ドル=147.20円(注2))、農業純所得(注3)は同22.8%減の1413億米ドル(20兆7974億円)と見込まれている(図1)。
インフレ調整後でも農業現金所得は前年比28.9%減、農業純所得は同25.4%減と見込まれるが、過去20年間のそれぞれの平均を上回る水準となっている。
(注1)総農業現金収入(農畜産物の販売収入や政府補助金収入に、観光農園収入などの農業関連収入を加えたもの)から、農業を行うための費用および借入金の利子などの現金支出額を差し引いたもので、生産者のキャッシュフローの指標となる。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年8月末TTS相場。
(注3)農業現金所得に自家消費分などの非現金収入を加えた額から、在庫相当額の変化を反映させ、減価償却費などの非現金支出額を差し引いたもの。直接現金の増減として表れない収入や支出も反映している。
牛の販売収入は18%増、鶏卵は32%減
USDAによると、2023年の農畜産物販売収入は主要農畜産物の価格下落により、前年比4.3%減の5136億米ドル(75兆5969億円)と見込まれている(表1)。
品目別に見ると、畜産部門では牛乳・乳製品(同20.9%減)は乳価の下落により、鶏卵(同32.3%減)は高病原性鳥インフルエンザからの回復に伴う供給量増加による価格の下落から、それぞれ大幅減が見込まれている。一方、牛(同17.8%増)は牛群縮小に伴う販売価格の上昇が販売頭数減少の影響を上回ることで、大幅増が見込まれている。また、作物部門ではトウモロコシ(同9.6%減)や大豆(同8.6%減)が、価格の下落によりかなりの程度減少すると見込まれている。
また、政府から生産者への直接支払補助金については、酪農マージン保障プログラム(注4)からの支払額の大幅増(前年比約7.1倍の9億米ドル(1332億円))が見込まれているものの、干ばつなどの災害に対する支援プログラムの支出額減少などにより、補助金全体で同19.0%減の126億米ドル(1兆8564億円)と見込まれている(表2)。
(注4)全国平均乳価から飼料費を差し引いた額を酪農マージンとし、その額が酪農家各自で選択した保障水準を下回った場合に、その一部を補てんするプログラム。
一方、生産費は同6.9%増の4580億米ドル(67兆4236億円)と見込まれている(表3)。
項目別に見ると、最大の支出となる飼料費(同3.2%増)はやや増加が見込まれているほか、家畜・家きん購入費(同22.0%増)は購入価格の上昇により、支払利息(同38.1%増)は債務水準の増加と金利上昇により、それぞれ大幅増と見込まれている。一方、燃料費(同13.1%減)についてはガソリン、ディーゼル燃料などの価格下落により、かなり大きく減少すると見込まれている。
酪農部門の1農場当たり農業現金所得は81%減
このような背景を踏まえ、2023年の農畜産業全体の1農場当たり平均農業現金所得は、8万7300米ドル(1285万円、前年比19.7%減)と大幅減が見込まれている。また、同年の畜産の1農場当たり平均農業現金所得は下表4のとおりであり、肉用牛(同36.3%増)では増加が見込まれているものの、酪農(同81.0%減)、養豚(同38.7%減)、養鶏(同42.9%減)ではいずれも大幅減が見込まれている(図2)。
【小林 大祐 令和5年9月19日発】
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