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スペイン豚肉生産、アニマルウェルフェア規制の厳格化などで減少見込み(EU)

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 米国農務省(USDA)は2023年9月6日、スペインの豚肉の需給動向について次の通り予測を公表した。

1 豚飼養頭数と豚肉生産量

 2022年の豚飼養頭数は、主産地であるカタルーニャ地方やアラゴン地方で豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)が広がったこと(注1)や、生産コストの上昇による農家収益の圧迫により、前年比1.1%減の3407万3000頭となった(表1)。この結果、同年の豚肉生産量は、同2.2%減の506万6000トンとなった。
 また、23年および24年の豚飼養頭数についてUSDAは、中国などからの豚肉輸入需要の減退や、後述する23年3月にスペイン政府が告知した勅令159/2023によるアニマルウェルフェア(AW)規制の厳格化(表2)の影響が大きいことから、引き続き減少傾向で推移するとしている。この結果、豚肉生産量も500万トンを下回る可能性もあると予測している。
 
(注1)海外情報「スペイン、豚繁殖・呼吸障害症候群の発生により子豚の輸入を拡大(EU)」を参照されたい。
表1
表2

2 アニマルウェルフェア規制の厳格化

 勅令159/2023によるAW規制の厳格化の内容は表2の通りである。既存の養豚農家は2025年3月まで2年間の移行期間が与えられるが、1頭当たりの飼養面積の拡大、給餌器や給水器の最低限の設置数の設定、アンモニアや二酸化炭素の上限濃度などの対応が求められている。
 この結果、新しいAW規制への適応を進めるため、今後2年間で母豚の淘汰(とうた)など飼養頭数の削減が行われるとみられている。
 スペインの養豚生産者代表は、この厳格化により、(1)豚舎改築費用の発生による生産コストの増加、(2)母豚のストール内飼養期間の制限により作業者がペンの中で300キログラムの生体豚と向き合うことによる労働安全上の懸念が生じると警告している。

3 消費および輸出

 2022年の豚肉(枝肉)価格は前年比29%高の100キログラム当たり217ユーロ(3万280円:1ユーロ=139.54円(注2))となったことで、生鮮豚肉の家庭内消費量は同11%減少した。しかしながら、国内の外食産業の回復により、23年以降の業務用需要は新型コロナウイルス感染症拡大以前の水準まで回復するとみられている。
 また、豚肉輸出については、生産量(表1)の半数強が輸出に仕向けられており、輸出先需要の影響を受けやすい構造となっている。22年の輸出量は270万トン(枝肉重量換算)と前年比4.4%減となった。これは、EU域内向けが比較的好調となったが、中国からの需要が鈍化したことの影響によるものである。
 スペインの農業団体である小規模農業畜産業者連合(UPA)は、スペインは20年以降EU最大の豚肉製品の輸出国であり、今後の輸出拡大のために、より付加価値の高いハム・ソーセージに焦点を当てていくべきとしている。
 
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「前年の年末・年間平均」の2022年間平均TTS相場。

4 日本の豚肉輸入状況

 2022年の日本のスペインからの豚肉輸入量は18万6000トン(前年比54.0%増)と大幅に増加した(図)。また、同年の日本の豚肉輸入量97万7000トンに占めるスペインの割合は19.1%となり、米国(同24.0%)およびカナダ(同21.6%)に次ぐ割合を誇る。生鮮および冷蔵または冷凍の違いはあるものの、アニマルウェルフェア対応のコストがかかり、USDAの予測するスペインの豚肉生産量の減少が現実となれば、日本への輸出価格の上昇圧力になると考えられる。
図
【調査情報部 令和5年9月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527