ニュージーランド、カナダとの乳製品貿易紛争に勝利(NZ)
カナダの乳製品関税割当制度の運用が「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」の公約に違反しているとしたニュージーランド(NZ)政府の訴えについては、紛争解決のために設置されたCPTPPパネル(以下、「パネル」という)が2023年9月6日、カナダの違反を認め、同国に是正を求める裁定を下した。
カナダの関税割当制度
2018年12月30日に発効されたCPTPPに基づき、カナダは脱脂粉乳やバター、チーズなどを含む乳製品16品目(注1)に対して関税割当制度を導入している。本制度では、一定の枠内の輸入量に限り無税を適用し、この数量を超えて輸入される分については、枠外税率を適用するものである。関税割当数量は、品目によって異なるものの、最長で19年かけて段階的に引き上げられる(表1)。
(注1)牛乳、クリーム、脱脂粉乳、全粉乳、クリームパウダー、濃縮乳、ヨーグルトおよびバターミルク、バターミルクパウダー、ホエイパウダー、生乳の天然組成分からなる製品、バター、加工用チーズ、モッツァレラチーズ、その他のチーズ、アイスクリームおよびアイスクリームミックス、その他の乳製品。
しかし、本制度の割当枠の利用資格は、国内の「乳製品加工業者」、「最終加工業者」、「卸売業者」のみに限定されている。実際に他国から乳製品を輸入・販売する可能性の高い大手スーパーマーケットなどの国内小売業者には、割当枠の利用資格が付与されておらず、割当数量の8割以上が、「乳製品加工業者」に配分されている状況にある(表2)。しかし、これら国内の乳製品加工業者にとって、海外産の乳製品は競合商品に当たるため、CPTPP発効以降、同国の割当枠はほとんど利用されていない。21/22年度(注2)は、乳製品16品目のうち13品目で充足率(注3)が10%未満となり、うち9品目は0%であった。
(注2)年度は8月〜翌7月。ただし、濃縮乳、ヨーグルトおよびバターミルク、バターミルクパウダー、生乳の天然乳成分からなる製品、加工用チーズ、モッツァレラチーズ、その他のチーズ、アイスクリームおよびアイスクリームミックス、その他の乳製品の年度は1月〜12月。
(注3)輸入によって充足された割当枠の割合。
NZによる紛争開始の背景
NZ政府は2022年5月12日、カナダ政府による乳製品の関税割当制度に関する運用はCPTPPに基づく公約と矛盾しているとして、同国に対し協議要請書を提出した。また、NZ政府は、NZの輸出業者が、協定の下で確保された市場アクセスの恩恵を十分に受けることが出来なかったことで、協定発効後の2年間で6800万NZドル(62億円、1NZドル=91.19円(注4))にのぼる損失を被り、経年による割当拡大により、その損失は年々増加するとの見方を示した。両国の協議は、同年6月に行われたものの解決には至らなかったため、NZ政府は同年11月、状況打開に向けてパネルの設置を要請した。パネルは23年3月に設立され、同年6月にカナダの首都であるオタワでの公聴会を経て、パネルによる最終報告がこのほど発表された。
(注4)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年9月末TTS相場。
パネルによる最終報告とNZ側の反応
パネルは最終報告書の中で、カナダが国内の乳製品加工業者に有利となる運用をすることは許されるものではないとの裁定を下した。また、パネルは、カナダやほかのCPTPP締約国に対し、毎年、関税割当数量の完遂を要求しているわけではないものの、「カナダの現在の割当メカニズムのように、過度に区分された複雑な制度により、関税割当数量を満たす機会が損なわれてはならない」と強調した。
NZのオコナー貿易大臣は、パネルがNZを支持する裁定を下したことを歓迎した。また、「政府として、私たちは引き続きNZの輸出企業を支援し、私たちが築いてきた歴史的な利益が損なわれないよう、貿易協定のルールが守られるよう努力する」と述べた。さらに「世界で最も親密な関係のひとつであるカナダとの強い友好を大切にし続ける」と両国関係に影響がないものとした。
なお、カナダによる関税割当制度の運用に対しては米国も異論を唱えており、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に違反すると主張している。本件については、USMCAの紛争解決パネルが2021年12月、米国側の主張を認める裁定を下している
(注5)。
(注5)詳細は、海外情報「USMCA紛争解決パネル、カナダの乳製品輸入に係る関税割当の運用を協定違反と裁定(米国、カナダ)」を参照されたい。
【工藤 理帆 令和5年10月3日発】
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