豪州農業団体、農家が抱える課題に関する調査結果を発表(豪州)
豪州の農業団体である全国農業者連盟(NFF)は2023年10月、全国1600人以上の農業従事者を対象に23年9月オンラインで実施された、農家の懸念や優先的課題に関する意識調査結果を公表した。
同調査結果によると、回答者の37.2%が、1年前よりも農業の将来に前向きになっていると実感していると回答した一方で、牛肉、羊肉、羊毛の生産者は、商品価格が下落する中、エルニーニョ現象に起因する干ばつが近い将来発生することが懸念され、前向きだとする回答割合は相対的に低くなっている。
また、連邦政府への評価として、政策が農業に悪影響を及ぼしていると考える農業従事者が54.3%と過半数を占め、連邦政府が生産者のために効果的な政策を実行していると回答した農業従事者は31.2%にとどまった。さらに、生産者が直面する重要課題として、具体的に、連邦政府の気候変動政策や環境法の動向、バイオセキュリティ保護、加工・小売業界からの圧力、道路や輸送インフラの整備、海外との貿易関係などが挙げられ、連邦政府による的確な取り組みが望まれている(表1)。
これらの重要課題について農業セクター別に見ると、捉え方に差があり、牛肉業界では隣国インドネシアでランピースキン病や口蹄疫が発生していることから、バイオセキュリティ保護が大きな課題であるとしている(表2)。乳製品業界では、現在交渉中のEUとのFTAを含む海外との貿易関係、穀物・油脂・豆類の業界では環境関連法、砂糖(サトウキビ)業界では農地における採鉱・エネルギー開発が最大の課題であると回答している。また、果物や野菜類の園芸業界では、労使関連法が大きな課題であるとしており、砂糖(サトウキビ)業界でも3番目に大きな課題とされている。この背景には、農業界における労働力不足がある。本調査では87.2%の農業従事者が、雇用条件が改善されれば1人以上の追加雇用を行う意向であるとしており、このうち40.2%が10人以上の追加雇用を行いたいとしている。
このような労働力不足に関して現労働党政権は、太平洋豪州労働力移動計画(PALM:Pacific Australia Labour Mobility)(注)による労働力確保に取り組んできており、調査結果では農業従事者全体の15%がPALMにより豪州に招致した労働者であるとしている(図1)。また、23年8月時点のPALM由来の労働者は、全体の7割を占める2万5741人が農業(漁業含む)に従事するなど、農業界にとって重要な政策であることがうかがえる(図2)。
(注)豪州外務省および農林水産省が推進するもので、太平洋諸国からの季節労働者が、最長4年間、同国内で働くことができるとするもの。
本計画は、雇用者がより多くの労働者を確保するため、大洋州諸国からの労働者側の労働条件改善の観点から、23年6月に豪州の雇用教育関係省によって見直しが行われた。24年7月以降、PALMによる労働者は毎週30時間以上の労働を提供されることなどが盛り込まれており、段階的に実施される見込みとなっている。一方で現地報道によると、天候に左右される農業の特性上、労働の有無にかかわらず、PALM労働者に週30時間分の賃金補償義務を負うことについて、雇用者側の負担になるといった指摘もされている。
本調査結果について、NFFのシムソン会長(当時:23年10月末退任)は、この結果に基づき、気象や市場の状況が悪化する中、農業セクターの成長をどのように支援できるかについて、政府内で協議を加速させるべきと主張している。
【調査情報部 令和5年11月7日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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