欧州議会、若年層の農業参入支援を呼び掛け(EU)
欧州議会は10月19日、「今後のEU農家における世代交代に関する決議(Generational renewal in the EU farms of the future)」を採択した。同決議の中で、農村や農業従事者における高齢化は深刻であると警告し、農家の世代交代を促進するため、各種施策の実施に関して次のとおり提案している。
1 議会による提案内容
- 若手就農者は、その他の者と比較して融資申請が却下されるケースが2〜3倍多いことから、若手就農者に対する金利低減措置や、初回融資時の支援といったサービスなどを提供すること
- 若手就農者がより容易に農地取得できるよう、過度の集積などが行われないよう監視する機関を設立すること
- 現世代から次世代への経営承継の支援や、承継後の元農家への年金支給などの財政支援を行い、世代交代を促進するための国家戦略を策定すること。また、次世代へ経営承継する際にアドバイスを行う人材を配置すること
- 若手就農者に対して、デジタル技術、事業計画策定、新しい農法の実践に関する研修を提供すること
同決議の提案に際し欧州議会のカルヴァルハイス議員は、「若手就農者たちは強固な障壁に直面しているため、さまざまな施策による支援が必要であり、我々の報告書は、若手就農者を支援するための今後の政策や対策を定める際の一助となるもの」とし、若手就農者に対する政策の必要性を訴えた。また同議員は「若手就農者は農業の未来を信じており、その未来をより明るいものにするための条件を整えるのは政治の責任である」と述べ、提案内容の早期実施を求めている。
2 関係者の反応
欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、「世代交代は差し迫った課題であり、農業の発展、農村地域の将来を左右するものである。」として、同決議を歓迎した。
欧州青年農業者協議会(CEJA)は、長年にわたり強調してきた若手就農者が直面する課題のほか、行動の道筋も提案しているとして、一定の評価をしつつ、「多くの若者が、継続的な農業投資を受けられなかったり、低収入などから新規就農をあきらめたり、失敗していることを忘れてはならない」として、欧州委員会と欧州理事会に対し、今回の決議に正式に回答するよう要請するとしている。
3 決議の背景
決議の中では、2020年の農業経営者の57.6%が55歳以上である一方、40歳未満の農業経営者は12%であるとされ、世代交代の必要性が強調されている。
また、23年10月24日付の欧州委員会統計局の報告によれば、20年時点でEU域内農家の大部分(93%)は家族経営(農業労働力の50%以上を家族労働者が占める家族経営の農場)に分類されており、家畜飼養頭数のうち55%が家族経営によって管理されているとしている。このことにより、経営承継が行われない場合、生産基盤の弱体化が懸念される状況にある。
同局によると、2010年から20年までの間に、牛や家きんの飼養農家は4割以上、豚の飼養農家は6割近く減少しており、現在は1戸当たりの飼養規模が拡大することで、飼養頭数はほぼ維持されているものの、若い世代への承継がなされない場合の生産基盤の弱体化が同様に懸念される状況にある(表)。
【調査情報部 令和5年11月14日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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