アイルランドで11月3日、10歳の牛が非定型BSE(注)(Bovine Spongiform Encephalopathy:牛海綿状脳症)と診断され、同国産牛肉の中国向け輸出が停止された。
(注) ウエスタンブロット法と呼ばれるBSEの検査において、異常プリオンタンパク質に汚染された飼料の経口摂取により発生する通常のBSE(定型BSE)とは異なるパターンを示すBSEである。発生数は定型BSEと比べて圧倒的に少なく、ほとんどが8歳以上の高齢牛で確認されている。発生原因は不明であるものの、孤発性の発生が示唆されており、ウエスタンブロット法の結果によりH型とL型の2種類に分類される。
中国以外の多くの国では、国際獣疫事務局(WOAH)が2019年に定めたガイドラインに従い、貿易制限は定型BSEの発生時のみ措置される。
連立政権の第1党である共和党のマーティン党首(副首相)は、輸出停止に至った事態を「不幸なこと」としながらも、非定型BSEの発生による輸出の停止は中国との事前の取り決めに基づくため、「中国当局が数カ月以内に輸出再開を認めることを期待している」と述べた。
アイルランドでは2020年5月にも非定型BSEの発生により中国向け輸出が3年近く停止され、23年1月に輸出が再開したところであった。ただし、23年初頭にブラジルで非定型BSEが発生したケースでは1カ月後に輸出が再開されたため、今回のケースでも早期に輸出が再開されるのではないかと期待されている。
アイルランド農業連盟(IFA)は11月7日、23年1月に中国向け輸出が再開されたばかりであり、今回の輸出停止の事態は残念だとしつつ、中国との事前の取り決めに基づくアイルランドでの発生に関する疫学報告書の提出により、早期の輸出再開を期待するとの声明を発表した。また、主要輸出先である英国とEU域内の牛肉需要は旺盛であり、クリスマス需要を控え牛肉価格は堅調であるため、今回の輸出停止は価格に大きな影響を及ぼさないとしている。
アイルランドから中国本土への牛肉の輸出量(CN0201(冷蔵)および0202(冷凍)の合計)は、20年の非定型BSE発生前の19年は7928トン(全輸出量の2.1%)であったが、輸出が再開した23年1月〜8月の累計では2071トン(全輸出量の0.8%)であった。