米国農務省、世界およびEUの砂糖需給見通しを公表(米国)
最終更新日:2023年12月5日
米国農務省(USDA)は2023年11月21日、世界の砂糖市場と貿易に関する報告書を公表した。本報告書では、砂糖の主要生産地域であるEUの需給見通しについても取り上げられており、併せて紹介する。
2023/24年度の世界の砂糖需給見通し
2023/24年度の世界の砂糖生産量は、タイとパキスタンの減産などにより、前回(23年5月)予測から442万トン下方修正されたが、ブラジルとインドの増産がこれを補うことから、1億8350万トン(前年度比4.7%増)とやや増加すると見込まれている(表)。このうち、生産量世界第1位のブラジルでは、好天と作付面積の拡大によるサトウキビ処理量の増加が期待されることから、4100万トン(同7.8%増)とかなりの程度増加し、過去最高水準に達すると見込まれている。また、同2位のインドも栽培面積や単収の増加などから、主産地で過去最高の生産量を記録した21/22年度水準までの回復が期待され、3600万トン(同12.5%増)とかなり大きく増加すると見込まれている。
輸入量は、EUや米国の輸入が減少するものの、中国では需給ギャップを埋めるための輸入増加が予想されることから、前回予測から114万トン下方修正の5787万トン(同0.8%増)とわずかに増加すると見込まれている。
消費量は、ブラジルの減少が予想されるも、インドやパキスタンなどでの増加により、前回予測から161万トン下方修正の1億7843万トン(同1.2%増)とわずかに増加し、過去最高を更新すると見込まれている。このうち、消費量世界第1位のインドでは、加工食品企業やバルクバイヤー(一括購入者)などの需要が増加することで、3051万トン(同3.2%増)と見込まれている。
輸出量は、インド(注1)やパキスタンなどからの輸出が減少するものの、ブラジルやタイの増加により、前回予測から470万トン下方修正の6741万トン(同4.8%増)とやや増加すると見込まれている。特にブラジルでは、国内消費が減少する中で増産分が輸出に向けられることで、3250万トン(15.2%)と記録的な輸出量が見込まれている。
この結果、期末在庫は前回予測から23万トン上方修正の3368万トン(同13.3%減)となったが、前年度末よりかなり大きく減少すると見込まれている。
(注1)インドの商工省外国貿易部(DGFT)は10月18日、砂糖の輸出制限を11月1日以降も延長すると発表した。これによるとEUおよび米国向けの関税割当枠を除いた砂糖の輸出制限が延長される。なお、延長の終期は追って通知するものとして、明確化されていない。
EUの砂糖生産量、フランスの面積減を他国が補い増加の見込み
2023/24年のEUの砂糖生産量は、てん菜の作付面積が148万ヘクタール(前年度比3.5%増)とやや増加することなどから(注2)、1553万トン(5.6%増)とやや増加すると見込まれている(図1)。EU最大の砂糖生産国であるフランスでは、これまでEU全体のてん菜収穫面積の28%(注3)を占めてきたが、23年1月19日に欧州司法裁判所がネオニコチノイド系農薬のてん菜への使用について、加盟国は一時的な緊急認可を否認する判決を下したことから(注4)、同国では多くの生産者がてん菜からの転作を余儀なくされた。このことから、同国のてん菜の作付面積は前年度比6%の減少が予測されている。しかし、ポーランドの同19%増をはじめ、スペイン、ルーマニア、スロバキア、ハンガリーなどで作付面積の増加が見込まれることで、フランスの作付面積の減少を補う状況となっている。
ネオニコチノイド系農薬は、てん菜の萎黄病を媒介するアブラムシの防除に使用されるが、有効な代替薬剤はなく、22年には、14のEU加盟国がてん菜種子に対するネオニコチノイド系農薬の使用禁止の条件付き適用除外を認めたと報告されている。このような状況にもかかわらず、ポーランドでは、てん菜生産の収益性は小麦やトウモロコシなどに比べて高い状況にある。また、ルーマニアでは、国内で二つの製糖工場の操業再開の動きがあり、これを受けた政府による連作支援の強化などにより、てん菜栽培が促進されるとみられている。さらに、ハンガリーやスペインでも、てん菜の価格が他の作物と比較して有利と予想されることから、てん菜を作付けする生産者が増加する可能性が示唆されている。
輸入量は、250万トン(16.7%減)と大幅に減少すると見込まれている。2022/23年度の輸入は前年を上回る水準で始まり、世界の砂糖価格が高騰した2022年末にかけて増加し続けた。EUの連帯レーン(Solidarity Lanes)などウクライナ産農産物の輸出を支援する措置や、ウクライナからの農産物輸入に対する関税割当を停止した輸入関税停止措置により、EU域内にはウクライナ産の砂糖が多く流入した(注5)。
輸出量は、90万5000トン(前年度同)と横ばいで推移すると見込まれている。これは、夏の干ばつやEUの砂糖価格の高騰によってEU域内に限られた供給が続いていることを反映している。主な輸出先は、英国、イスラエル、スイス、トルコ、アルバニアである(図2)。
以上より期末在庫は、140万トン(10.0%増)とかなり大きく増加すると見込まれている(図2)。
(注2)詳細については、2023年10月18日付け海外情報「欧州委員会、砂糖の短期的需給見通しを公表(EU)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003611.htmlを参照されたい。
(注3)過去5カ年度の平均。
(注4)詳細については、2023年2月7日付け海外情報「ネオニコチノイド系農薬の緊急使用に否認の判決(EU)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003455.htmlを参照されたい。
(注5)詳細については、2022年6月9日付け海外情報「欧州委員会、ウクライナ産農産物の輸出支援策を発表(EU)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003272.htmlを参照されたい。
【調査情報部 峯岸 啓之 令和5年12月5日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際情報グループ)
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