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EU理事会、産業排出指令改正の暫定合意で牛の生産者を除外(EU)

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 EU理事会は11月29日、産業から発生する汚染物質の排出制限を強化する産業排出指令(IED)改正に関し、欧州議会と暫定合意に至ったと発表した。今回の合意では、IEDの対象に牛は含まれておらず、2022年4月に欧州委員会が発表した改正案(注1)の一部を覆すものとなった。
 欧州委員会の改正案では、150家畜単位(LSU)(注2)以上の牛を含む家畜を飼養する農場を対象としていたが、生産者団体からは正しい試算に基づいていないことや生産者への影響について懸念の声が聞かれ、各国の農相からは食料安全保障や欧州の農場の経済的な活力に悪影響を与えるとして、制度の対象とする基準の緩和要求が出されていた(注3)。一方で、豚や鶏は引き続き対象とされ、生産者は汚水やアンモニアの排出削減を目的とした設備導入や従業員のトレーニングなどの対応が求められる(表)。
 
(注1)海外情報「欧州委員会、汚染物質排出制限強化で畜産生産者の範囲拡大案を発表(EU)」を参照されたい。
(注2)家畜の種別ごとに、飼料要求量に基づいて設定された係数。この係数を使用することにより、畜種および年齢の異なる家畜を共通の基準単位であらわすことができる。1LSUは、濃厚飼料を給餌せず年間3000キログラムの牛乳を生産する乳牛1頭が排出するメタンなどの温室効果ガスに相当。使用する係数は、以下の表を参照。
(注3)海外情報「畜産の扱いをめぐり難航する産業排出指令の改正(EU)」を参照されたい。
表 指令の対象となる家畜の規模
この発表に関しアイルランド畜産・牧羊業者協会(ICSA)のケラハー会長は、「牛や羊の生産者は、工業の大規模工場とは違うため、畜産をIEDの対象に含めることは大きな間違いであると主張してきた」と述べ、今回の暫定合意を歓迎した。また、ブルガリアの欧州議会議員であり、IED改正に関する欧州議会とEU理事会の交渉責任者であるカネフ議員は、「今後、欧州委員会が牛を対象とする場合は、新たな立法案を議会に提出する前に、改めて影響評価を行い、牛を飼養する生産者と公正かつ透明性のある議論をする必要がある」と述べた。
 
 一方、EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa−Cogeca)は、今回の暫定合意で豚や鶏が除外されなかったことに懸念を示している。また同委員会は「繁殖豚農家がこの指令に違反した場合の活動停止や年間売上高の3%に相当する罰金は中小規模の生産者にとって大きな負担になる」として、今回の妥協案が多くの畜産生産者に懸念をもたらしていると訴えた。さらに「EU域外の第三国からの輸入に関し、この指令を適用する「相互主義条項」(注4)に関する議論が行われなかったことはEU域内の生産者に説明ができない」と不満を表明している。
 
(注4)相手国(輸入先国)に対して、自国(EU)と同様の規則を適用するという考え方。
 
 牛から排出されるアンモニアやメタンなどの排出への対応については、2026年末までに欧州委員会で検討し、その結果、IEDに含めようとする場合には、同委員会から新たに立法案の提出が必要となる。
【藤岡 洋太 令和5年12月8日発】
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