欧州委員会が動物輸送に関するアニマルウェルフェア規制案を発表(EU)
欧州委員会は2023年12月7日、動物輸送に関するアニマルウェルフェア(AW)規制案を発表した。今後、同規則案は欧州議会とEU理事会の審議にかけられる。当初、AWに関して同時に発表される予定とされていた農場段階の規制、と畜段階の規制、AWラベルの規制案については、引き続き検討を進める必要があるとして今回は提案が見送られた。
AW規則案で注目すべき点は、EUから域外国への動物の輸送や、域外国からEUへの動物の輸送についても対象とされており、動物の輸送を依頼する者および実際に動物を輸送する運送業者への規制を通じて、域外国における輸送時にも一部の規則が適用されることである。
1 規制の主な内容
1) 対象となる動物
脊椎動物、イカやタコなどの頭足類、エビやカニなどの十脚類が対象とされる。このうち、主に規制の対象となる家畜は、牛、豚、羊、ヤギ、馬、シカ、ウサギおよび家きんである。
2) 動物輸送関係者の登録および義務
動物輸送を依頼する者および実際に動物の輸送を担当する運送業者は、事前に管轄当局の認可を受ける必要がある。この認可は、9時間以内の短時間輸送と9時間を超える長時間輸送に別れており、長時間輸送の場合、輸送中に緊急事態が発生した場合の緊急時対応計画の策定などが求められる。また、依頼する者は出発地から目的地までの旅程表を提出し、本規則の遵守に対して責任を負い、運送業者は運転手、添乗員に研修を受けさせ、輸送中のAWの担当者を指名しなければならない。
また、運送業者および目的地で動物を保管する者は、目的地への動物の到着日時や到着時の状態を記録し、欧州委員会が提供するTRACESシステム(注1)に登録する必要がある。さらに、荷下ろしについては獣医師による監督が必要となる。
道路運送車両による輸送については、出発地から目的地に到着するまでの間,GPSによるモニタリングを行い、そのデータを同システムに登録する必要がある。
(注1)EUにおいて、動物、動物製品、非動物由来の食品および飼料、植物の貿易の手続きに使用されるシステム。
3) 鉄道やトラックによる輸送時間の制限
輸送される動物は、出発の1週間前から出発地に滞在している必要がある。
と畜仕向けとなる動物の輸送時間の上限は9時間となった。ただし、この輸送時間の範囲内にと畜場がない場合は、当局の許可を受けることで延長が可能となる。
と畜以外の仕向け以外の動物の輸送時間の上限は、10時間の輸送、1時間の休憩(車上可。鉄路による輸送は除外)、10時間の輸送をあわせた21時間となった。この輸送の後、動物を車両から下ろし、24時間の休息(注2)を与えなければならない。また、24時間の休息の後、さらに最大21時間の輸送をすることは可能となるが、その場合の到着地は、当該動物の最終目的地でなければならないとされた。
これらの時間制限について、一定の条件を満たす場合には家畜運搬車のRORO船(注3)への搭乗に要する時間などは輸送時間にカウントされない。また繁殖用途で、バイオセキュリティーが担保された特定の環境下で輸送される動物に対しても適用されない。
(注2)域外国における動物の休息は、欧州委員会が定める条件を満たし欧州委員会に登録された場所で行わなければならない。
(注3)車両が自走で船に乗り込み、貨物を積載したまま運搬できる貨物用の船舶
4) 輸送時の密度の制限
動物が輸送中に安全に態勢を整え休憩できるよう、動物の種と体重に応じて、確保すべき最低限のスペースが定められた(表)。
この密度制限は、道路、鉄道、海上輸送に適用される。
5) 外気温による輸送制限
外気温が25度から30度に達すると予想される場合、輸送時間は10時から21時までの間は最大9時間に制限される。外気温が30度を超える場合、動物の輸送は21時から10時までのみ許可されるが、夜間の外気温が30度を超える場合、動物にはより広いスペースを与える必要がある。
一方、外気温が0度以下になると予想される場合は、運送車両にカバーをかけ空気循環が行われる空間を用意して、動物が冷風にさらされないように保護しなければならず、マイナス5度になる場合は、上記の措置に加え、輸送時間は最大9時間に制限される。
6) 脆弱な動物の輸送
生まれたばかりでへその緒の後が完全に治っていないような動物、病気やけがをしている動物などの輸送は禁止される。生後5週齢未満で体重50キログラム未満の子牛、生後3週齢未満の子豚も、輸送距離が100キロメートルを超えて輸送することは禁じられる。
上記以外の離乳していない動物(幼体)の輸送時間は、8時間を超えてはいけないとされた。ただし、当局により承認された給餌装置が整備されている輸送手段の場合に限り、最大9時間輸送することができ、その後1時間の休憩(車上可)の後、幼体をさらに最大9時間輸送することが可能となる。しかし、子豚の体重が10キログラム未満で母豚が同行していない場合は、合計で9時間を超えて輸送することはできない。
7) その他
農家が自らの輸送手段で自らの動物を畜舎から50キロメートルを超えない範囲に移動させる場合や、動物病院への移送などは適用されない。違反時には加盟国が定める罰則が適用されるが、その中に売上高に対する割合で計算される制裁金などの厳しい罰則を含めることが認められている。
また、加盟国が独自に厳格化することも可能であるが、当該国内で完結する輸送や、当該国から他の加盟国を経由せずに域外国へ輸送される場合に限られる。
8) 規則の発効
官報掲載日から20日後に発効し、適用開始は発効日から2年後となる。道路運送車両による輸送の追跡データのTRACESシステムへの登録義務、輸送時間の制限、輸送時の密度の制限、EUと域外国との間で行われる輸送への規制などの適用開始は発効日から5年後となる。
欧州委員会は、本規則が適用されることにより食肉生産コストがわずかに上昇すると予想している。また、車両や船舶の改修などが必要となるため、十分な移行期間を確保することを提案している。
2 関係団体の反応など
EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa―Cogeca)は12月7日付のプレスリリースで、(1)輸送時間などがより厳しく制限される幼体の年齢を引き上げたことにより、酪農家などへ甚大な影響が生じ、一部は廃業に追い込まれる危険があること、(2)輸送時間の制限により、と畜場への輸送が限定され、インフラが整備されていない地域や山岳地帯を抱える加盟国に悪影響が生じること、(3)外気温による輸送制限は(夏に気温が高くなる)南欧諸国にとって影響が大きいだけでなく、夜間の移動は昼行性の家畜にとって負担となること、(4)密度規制により一度に運べる家畜の数が減少し、必要なトラックの台数が増加することで、必要な労働者の数が増加するだけでなく、温室効果ガスの排出が増加すること、などを指摘し見直しを強く求めている。
一方、欧州各地の団体100以上が会員となっている動物保護のNGOである動物のためのユーログループ(Eurogroup for animals)は、12月11日付のプレスリリースで同規則案を評価しつつも、(1)提案内容は水準が低く、一部内容は欧州食品安全機関(EFSA)による勧告内容から後退していること、(2)と畜以外の目的であれば3日間で42時間の輸送が認められること、(3)当初予定されていた他の3つの規則、特にケージ飼育の廃止に関する農場段階の規則案が提案されなかったこと、などに不満を表明している。
同規則案は12月6日の発表予定から1日遅れた上、詳細な条件を定めた附属表についてはさらに数日公表が遅れるなど、直前まで調整が続いていたとみられている。また、同月7日に行われた説明会では、生産者団体および動物保護団体から強い不満が表明されるなど、今後の規則案の審議過程で、厳しい調整が続くとみられる。
【調査情報部 令和6年1月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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