欧州委員会、ドイツのアニマルウェルフェアに関する支援計画を承認(EU)
欧州委員会は2024年1月30日、ドイツのアニマルウェルフェアに関する総額10億ユーロ(1614億7000万円:1ユーロ=161.47円(注1))の支援計画を承認したと発表した。これは、EUの国家援助規則(注2)に基づくもので、各加盟国は欧州委員会の承認を得て各加盟国内で支援を行うことができる。今回の支援計画は、主に豚を対象とした畜舎の改修やアニマルウェルフェアの向上に向けた取り組みを支援するもので、欧州グリーンディール、共通農業政策(CAP)、農場から食卓まで(F2F)戦略の目標達成に貢献するものであるとしている。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年1月末TTS相場。
(注2)国家援助規則(State aid rules):EUでは域内統一市場の原理と矛盾しないなど欧州委員会が認めるものを除いて、国家による支援は禁止されている。
支援の内容
今回承認された計画では、アニマルウェルフェアの遂行のために必要となる(1)畜舎の改修(2)飼養方法の改善、の2つについて、主に養豚繁殖経営の中小規模の生産者を対象に支援するとし、将来的には他の畜種でも同様の支援を行う可能性があるとしている(表)。
欧州委員会の承認を受けてドイツのオズデミル農相は、「ドイツの畜産業は将来性を持つべきものであり、それは、より高いアニマルウェルフェア水準を求める消費者の要望をビジネスモデルに反映してこそ可能になる。今回の支援計画のための10億ユーロの予算は、これまで連邦政府が行ってきた持続可能な畜産業に対する支援の中で最大であり、生産者が安心してアニマルウェルフェアの向上に取り組むためには、長期的な支援が必要である」と述べた。
業界の反応
ドイツ養豚生産者協会(ISN)は、養豚生産者が畜産再編成(アニマルウェルフェアの向上に向けた取り組み)のために経済的支援を必要としていることは間違いないとした上で、今回の支援計画を歓迎しつつも、今後明らかにされる具体的な支援内容が養豚生産者にとって実際に活用できるものか確認の必要があるとしている。
また、連邦牛豚協会(BRS)のハマー専務理事は、この支援計画は換気システムの導入や屋外へのアクセス、有機畜産への投資を行う生産者が対象であるため、政府の補助があったとしても同国で主流の飼養方式(注3)から支援計画に記載の飼養方式に転換させることは簡単ではなく、多数の養豚生産者が活用できないことから、アニマルウェルフェアの向上に取り組むことは困難と懸念を示した。
(注3)BRSによると、アニマルウェルフェアの水準に合わせてドイツで定められている5段階の飼養方式のうち、ドイツの養豚生産者の約9割が飼養方式1(1頭当たり0.75平方メートル以上の飼養スペースの豚舎などの要件)や飼養方式2(同0.825平方メートル以上などの要件)で飼養しており、これらの生産者がより広い飼養スペースが必要となる換気システムの導入や屋外アクセスへの投資を行うことは、導入コストを回収することが難しいため考えにくいとしている。
【藤岡 洋太 令和6年2月16日発】
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