2024年農業アウトルック・フォーラムにおけるヴィルサック農務長官の講演(米国)
米国農務省(USDA)は2月15日、16日の2日間にわたり、「2024年農業アウトルック・フォーラム」を開催した。本フォーラムは今後の米国農業の動向を解説すべく毎年開催されており、本年は第100回目の開催となった。本フォーラムの冒頭でヴィルサック農務長官による基調講演が行われた。
気候変動に配慮した農畜産物生産を推進
ヴィルサック農務長官は、USDAが2月13日に公表した2022年米国農業センサスで示された数十年にもわたる農家戸数と農地面積の減少について言及し、この減少が直近5年間でも続いていることが「問題ないこと」であるのか、自問してほしいと問いかけた。また、農場が失われると生産者の生活も失われ、農村部の学校に通う若者の減少や中小企業の取引先の減少につながる。その結果、教育や他産業にも影響が生じ得るとして、農業は地域社会を左右する存在であると訴えた。
加えて、USDAが2月7日に公表した農業収入の見通しに関し、好調であった直近2〜3年間と打って変わり、24年の農業収入は非常に厳しい見通しであることについて言及した。特に、50万米ドル(7427万5000円:1米ドル=148.55円(注1))以上の収入を得ている大規模農家は米国農家の約7%程度に過ぎないにもかかわらず、大規模農家の農業収入が米国農業収入全体の9割近くを占める状況が続いていることについて、中小規模農家が農外収入に依存する状況に陥らないようにすることの重要性を説いた。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年1月末TTS相場。
そのためには複数の農業収入源を確保し、収益の多様化を目指すことが必要であるとして、USDAによる「気候変動に配慮した商品のためのパートナーシップ・プログラム」を紹介した。USDAは22年から同プログラムによって、気候変動に配慮した農畜産物の市場拡大や市場機会を捉えた生産者の収益化を推進している(注2)。具体的には、(1)気候変動に配慮した生産方法の導入、(2)温室効果ガス(GHG)排出量のモニタリング・定量化・報告・検証の方法の実証、(3)気候変動に配慮した農畜産物の市場拡大に対して技術・財政支援を行っている。これまでに、141のプロジェクトに対し31億2500万米ドル(4642億1875万円)を措置している。
(注2)『畜産の情報』2023年3月号「米国における持続可能な酪農・肉用牛生産に向けた取り組みについて」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002627.html)を参照されたい。
さらに、同長官は農業廃棄物からの航空機用バイオ燃料の製造、再生可能エネルギーの生産についても触れ、これらの技術が創造する新たな産業を米国農業が中心となって加速させることによって、生産者一人一人が市場機会を得られるものであるとして、関係者による協力を促した。
【調査情報部 令和6年2月21日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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