中国農業農村部、豚の飼養頭数調整のための方策を改訂(中国)
中国農業農村部は2024年3月1日、中国養豚業界の最大の関心事項である豚の飼育目標頭数などを定めた「豚生産能力管理調整方策」を改訂し、公表した。
方策の位置付け
中国の豚飼育頭数は2018年のアフリカ豚熱の発生およびまん延により大幅に3割近くも減少し、その後、21年にはアフリカ豚熱発生以前の飼育頭数にまで短期間で急激に回復した。飼育頭数はその後も増加を続け、23年には1年間を通じて豚肉価格の低迷が問題となるまでに至った。
この振れ幅の大きさに対し、中国農業農村部は21年8月、国家発展改革委員会、財政部、生態環境部、商務部および銀行保険監督管理委員会との連名により「養豚産業の持続的で健康的な発展の促進に関する意見」(以下「意見」という)を発出した。農業農村部は、意見が示す姿の実現を目指し、豚の飼育頭数を調整することで豚の生産飼育および豚肉の市場供給の安定を図ることを目的に、翌9月、「豚生産能力管理調整方策(暫定)」を制定、公表した。これが、23年の豚肉価格低迷を受けて今回改訂され、「(暫定)」が取れた「豚生産能力管理調整方策(以下「改訂後の方策」という)」として公表されたものである。
方策の概要
方策が示す生産調整の方法とは、母豚の飼育頭数の変化率を主要な生産指標とし、その変化率を緑、黄および赤の三段階に分類した上で、それぞれの段階に応じた政策措置を講じる、というものである。このように、具体的な飼育頭数目標を示すことによって、養豚業界に対して一定の飼育頭数内に収まるよう自律的な生産調整を求めるとともに、政府としては、豚肉価格が低迷した際に実施される豚肉備蓄制度と相まって、生産面から豚肉の市場供給量を管理しようとするものである。
改訂後の方策は、意見に記載された内容を実現するために担当行政部局が発出した指導文書であるとの位置づけや、豚の飼育頭数の生産調整の方法などの基本的な枠組みについては従前の内容を踏襲した上で、主要な生産指標が改訂された。具体的には、2つの指標((1)母豚の適正飼育頭数目標:2021年の「4100万頭前後」から「3900万頭前後」、(2)緑に該当する月別変化率のうちの下限:「95%」から「92%」)が下方修正された(上限については改訂前後ともに「105%」で変更はない)。
これにより、緑に該当する頭数、すなわち、適正な範囲であるとされる母豚の飼育頭数が、「3895万頭から4305万頭の間」から「3588万頭から4095万頭の間」に下方修正されることになった。
参考として、改訂前の方策では指標策定の根拠として21年6月時点の数値が採用されており、同月時点での飼育頭数は4564万頭であったが、23年末時点では4142万頭へ減少し、23年の1年間でみれば、22年末に比較して約250万頭の減少となった。これらの頭数は、方策の根拠となる意見が示す数に比べても低い。当意見では、「母豚の飼育頭数は4300万頭前後で安定させ、少なくとも4000万頭を飼育する」とされていた。
この母豚の適正飼育頭数目標は、必要な年間の豚肉生産量を元に設定されているが、改訂前後の方策ではともに所要生産量を5500万トンとしており、変更はない。つまり、豚肉生産量目標は据え置きのまま母豚の適正飼育頭数目標だけが下方修正されたことになる。このことは、豚肉の消費は依然として堅調であり、引き続き国民が求める豚肉消費量を確保する必要があること、他方で、持続的で健康的な業界発展を図る観点からは、養豚業界、特に大規模企業における近年の成長速度・投資速度に対して、中国政府が強い関心を持っていることが読み取れる。
改訂後の方策の実現可能性
改訂後の方策では、改訂前の方策と同じく生産調整支援策が明記される一方、改訂前以上に強制的な措置を取るとの内容の追加はなされなかった。支援策として明記された補助金については、改訂前に比べて支給対象が狭められているなどといった運用改善が見られる。具体的には、改訂前には、母豚の適正飼育頭数目標の95%を下回るか、豚1頭当たりのコスト割れが3カ月連続して100元(2118円:1元=21.18円(注))となった場合が補助の対象とされた。しかし改訂後の方策では、そもそもの母豚の適正飼育頭数目標が下方修正されたにもかかわらず、補助金の支給対象は母豚の適正飼育頭数目標の95%を下回った場合か、豚1頭当たりのコスト割れが3カ月連続して200元(4236円)となった場合へと引き上げられた。
改訂後の方策の案は昨年内にパブリック・コメントで公表されており、現地報道によると、適正飼育頭数目標が「3900万頭前後」と下方修正されていたことを受けて、改訂後の方策が確定する前から先行して生産調整を始めていた養豚企業があるとされている。また、中国の養豚業界は、政府による生産調整が実際にどの程度強化されるのかに注目しているとされ、改訂後の方策により生産目標の下方修正が行われたことで、養豚企業における自律的な生産調整が加速することが見込まれる。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年2月末TTS相場。
【調査情報部 令和6年3月12日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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