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欧州議会、家畜飼料原料の輸入依存状況を公表(EU)

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 欧州議会農業委員会は2024年3月4日、EUの食料システムにおける域外からの依存状況に関する調査結果を公表した。今回の調査は、新型コロナウイルス感染症の拡大やロシアによるウクライナ侵攻を背景に世界的な物流の混乱やエネルギー価格の上昇などがEUの食料生産に大きな影響を及ぼしたことを踏まえて、家畜飼料や肥料などの第三国からの輸入依存状況の把握を目的に実施された。

家畜飼料の輸入への依存

 調査結果では、EUの畜産物生産に用いる飼料用たんぱく質のうち、養豚や養鶏向け配合飼料の主原料となる大豆かすの輸入依存度が特に高く、輸入元が一部の国に偏っていることを指摘した。一方、牛や羊などの反(すう)動物向け飼料に関しては、必要なたんぱく質を域内で生産される粗飼料などである程度まかなえるため、輸入依存は高くないとした(表1)。
表1
 大豆については、EU域内の総使用量の84%、大豆かすについては、同97%を輸入しており、それぞれ輸入量全体の85%を上位2カ国が占めている(表2)。調査結果によると、大豆はEUの畜産にとって重要なたんぱく質供給源であり、輸入元の生産コストが低いことで、輸入依存度を高める結果になっているとされた。
表2
 また、新型コロナウイルス感染症の拡大やロシアによるウクライナ侵攻の影響で、主要農産物または生産資材の輸入元であったウクライナ、ロシア、ベラルーシとの貿易規制や海上輸送の混乱などにより家畜飼料価格などの生産コストが上昇し、消費者価格にも影響を及ぼしているとされている。
 
 今回の調査結果を踏まえて、調査を行った研究チームは、EUの食料システムにおける輸入への依存に対応するためにEU当局に対して以下の政策提言を行った。
(1)食料安全保障のための多様な供給元の確保
(2)戦略的備蓄による市場の安定性への対応
(3)物流を維持するための欧州横断輸送ネットワーク(TEN-T)の促進
(4)域内生産の増加を促進させる研究・技術革新の強化
(5)共通農業政策(CAP)を通じた自給率向上の推進
(6)輸入依存度の監視強化
 
 その他、消費者の食生活における動物性食品を減らすといった消費パターンの変化や「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略において掲げられている昆虫や藻類などの代替飼料原料の使用(注)も飼料原料の輸入を削減できる可能性があるとされている。
 
(注)「EUにおける昆虫の飼料利用の実態と展望」(畜産の情報2023年9月号)をご参照ください。
 
 現地報道によると、今回の調査結果を踏まえて、欧州委員会は24年にもEUのたんぱく質政策を見直し、(飼料原料となる)植物性たんぱく質の域内生産を増加させるための措置を講じる可能性があるとしている。
【藤岡 洋太 令和6年3月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397