欧州委員会、ロシアとベラルーシ産穀物製品の関税引き上げを提案(EU)
欧州委員会は2024年3月22日、ロシアおよびベラルーシからの穀物、油糧種子および小麦、トウモロコシなどの穀物製品(以下「穀物製品等」という)のEU域内への輸入に対し、1トン当たり95ユーロ(1万5650円、1ユーロ=164.74円(注1))の従量税または50%の従価税への関税引き上げ措置を提案した。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年3月末TTS相場。
関税引き上げ措置の目的
欧州委員会によると、今回の穀物製品等の関税引き上げ措置の目的は次のとおりとされる。
(1)EU市場の不安定化の防止
世界有数の穀物輸出国であるロシアは、地理的にもEUへの食糧輸出に意欲的なため、EU農業界はロシア産穀物製品等の流入によるEU市場の不安定化を懸念している。同措置によりEU市場に対するロシアの脅威を抑制する。
(2)ウクライナ産穀物製品等の違法輸出の防止
同措置により、占領下にあるウクライナ領土で生産された穀物製品等がロシア産としてEU市場へ輸出されないように措置する。
(3)ウクライナ侵攻の資金源となることの防止
ロシアは2023年、EUへの穀物製品等の輸出により約13億ユーロ(2142億円)の収入を得ているため、同措置により、ロシアによるウクライナ侵攻の資金源の一つとなる同収入が低減される。
欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は同日、「EU市場と農家に対するリスクの軽減のために、ロシアからの穀物製品等に対する関税の引き上げを提案する。この関税引き上げにより、ロシアがEUから得ているウクライナ侵攻の資金源は減少するだろう。EUは、域内経済と農村支援に対して適切なバランスを保ちつつ、同時にウクライナへの支援を継続する」と述べている。
同措置は、ロシアと政治的・経済的に密接な関係にあるベラルーシにも適用される。これにより、ロシアが同措置を回避するために、ベラルーシを経由してEU市場へのロシア産穀物製品等の流入を防ぐことを可能としている。
同措置は今後、欧州理事会で審議され、採択されれば直ちに適用される。
なお、今回の穀物製品等の関税引き上げ措置について、欧州委員会はロシアおよびベラルーシから第三国への穀物製品等の輸出は、同措置の影響を受けないとしており、欧州連合は発展途上国をはじめ世界的な食糧安全保障の推進に引き続き全力を尽くしていくとした。
EUによるロシア産トウモロコシ等の輸入状況
EU27カ国は2023年、ロシアからトウモロコシを49万5000トン(前年比40%増)、小麦を81万8000トン(同97%増)それぞれ輸入した(表)。ロシアによるウクライナ侵攻開始の22年から大幅に増加したものの、EU27カ国全体の輸入量に占める割合は、それぞれ2.5%および6.8%となっており10%に満たないものである。また、ロシアの21年(注2)のトウモロコシ輸出量は294万トン、小麦は同2737万トンであり、輸出先第1位はいずれもトルコとなり、このほかアフリカ諸国や韓国、カザフスタン、バングラデシュへの輸出が多い。
(注2)ロシア連邦税関局は22年以降、同国からのトウモロコシおよび小麦の輸出量を公表していない。
現地報道によると、ロシアによる穀物製品等のEU向け輸出は、同国の輸出量全体のわずか約2%とされている。このため、今回の穀物製品等の関税引き上げ措置の効果は、限定的とみられている。また、同措置の提案は、環境規制やウクライナ産農畜産物の輸入に対する関税の停止などをめぐる生産者の抗議行動
(注3)に対し、欧州連合が対応を議論する中で行われたとされる。
(注3)海外情報「生産者による抗議行動を受け、EU農相理事会が対案を発表(EU)」もご参照ください。
【渡辺 淳一 令和6年4月2日発】
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