運送業界が新たな動物輸送規制案への懸念を表明(EU)
生体動物輸送などを行う道路運送会社3400社以上が加盟する欧州道路運送業者機構(OTRE)は2024年3月27日、EUの家畜などの動物輸送に関する規制の動きについて懸念を表明した。動物輸送に関する規則改正については、域内でのアニマルウェルフェアの向上を図るため、23年12月に欧州委員会が規制案を発表し、欧州議会とEU理事会での審議されることとなっている
(注1)。
(注1)海外情報「欧州委員会が動物輸送に関するアニマルウェルフェア規制案を発表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003687.html)をご参照ください。
指摘した主な懸念点
OTREはプレスリリースの中で、アニマルウェルフェアの向上と輸送中の動物の保護に賛成の立場であり、欧州委員会の意欲を歓迎するとした上で、今回の規制案のいくつかの項目が、EUが追求する脱炭素化の目標だけではなくアニマルウェルフェアを損なうものであるとして、以下の点を指摘している。
(1)動物輸送時の密度の制限の影響
今回の規制案では、輸送時に動物が安全に体勢を整え休息できるよう、確保すべき最低限のスペースを定めているが、動物間の間隔を広げることにより輸送中の安定性が低下し、小型の家畜(羊、子牛など)の場合、転倒などにより圧死や骨折などのけがを負うリスクが高まるとしている。
また、動物輸送の車両が増えることは確実であり、結果として温室効果ガスの排出量が増加し、EU政府が推進する脱炭素化の目標と矛盾するだけでなく、車両の追加購入や燃料費、メンテナンスなどのコストが高騰すると指摘している。フランスの研究機関による試算では、密度制限に対応するために必要な車両への投資額は2600万ユーロ(42億8324万円:1ユーロ=164.74円(注2))と見積もっている。さらには、現在も運送業界の大きな課題となっている労働力不足にさらなる負担をかけることになるとしている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年3月末TTS相場。
(2)輸送時のリアルタイムモニタリング
規制案で定めているTRACESシステム(注3)での走行記録などは、運送業者の管理負担が増えることに加えて、同システムでカバーされていない地域での移動が多いため、輸送のリアルタイムモニタリングは不可能であるとしている。
(注3)EUにおいて、動物、動物製品、非動物由来の食品および飼料、植物の貿易の手続きに使用されるシステム。
(3)長距離輸送時の休息の遵守
規則で定められた輸送時間の制限と長時間輸送時の休息の確保(注4)により、運送業者は頻繁に停車する必要が生じ、登録された休息施設で動物を貨物車から下ろすことになる。しかし、このような休息施設がない地域が数多く存在することや加盟国間で衛生環境に大きな格差があることから、運送業者は給餌システムなどが装備された輸送車を用意する必要があるとしている。
(注4)規則に定められた輸送時間の後、一定の条件を満たし欧州委員会に登録された場所で動物を休息させなければならない。
EUでのアニマルウェルフェアに関する規則の見直しをめぐっては、欧州委員会が「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略の一環として、23年までにアニマルウェルフェアに関する規則の包括的な見直しを行うとしていたが、同年12月に発表されたのは動物輸送に関する規制などの一部の改正案にとどまった。このことについて、同委員会のフェレイラ氏は24年3月14日、と畜規則の変更やアニマルウェルフェア表示の規則などの未提案の事項について、フォン・デア・ライエン委員長が同年1月から開始した戦略的対話による業界関係者との十分な協議が必要であると述べた。これを受けて、EU理事会などからは法律の改正に向けた議論を加速するよう求める声が上がっている。
【藤岡 洋太 令和6年4月11日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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