米国農務省が特別栄養補給プログラムを改正、乳業関係団体は懸念を表明(米国)
米国農務省(USDA)は4月18日、女性・乳児・子供のための特別栄養補給プログラム(WIC)の改正を公布した。今回の改正では、財源の増額とともにプログラムを活用して購入できる野菜・果実の上限額などが拡充されたが、一部の参加者にとっては購入できる乳製品の上限数量が削減された。このため、酪農・乳業関係団体は懸念を表明している。改正されたWICは、6月17日からの施行が予定されている。
1 米国のWICの概要
USDAでは複数のプログラムを通じて、食料安全保障の確保および飢餓を減少させるため、子供および低所得者に対する食品の提供や栄養教育などを実施している。この中でWICは、低所得であり栄養学的にリスクがあるとみなされた妊娠中、産後および授乳中の女性、乳児ならびに5歳までの幼児を対象に(1)食品パッケージ(注1)の提供(2)健康状態の確認および保健サービスの紹介(3)母乳育児の推進と支援(4)栄養教育を実施するプログラムであり、約630万人が参加している(2022年時点)。プログラムの大部分は食品パッケージの提供が占めており、参加者は、プログラム内で該当する区分に応じて、食品の提供を受けることができる。また、各区分で品目ごとの月間の提供上限(数量または金額)が定められており、参加者は、クーポン券(CVV)やデビットカードを用いて州当局から承認を受けた店舗から食品を入手する。
(注1)参加者の食事に必要な補足を行い、健康・成長を促進するために構成された野菜・果実、牛乳、穀物などの食品。
2 改正の経緯・概要
WICは、最新の栄養学の知見に基づき2022年11月に改正案が公表された後、パブリックコメントなどを踏まえ改正された(24年4月18日官報掲載)。改正に伴い、政府は10億米ドル(1524億円:1米ドル=152.41円
(注2))の追加支出を決定し、合計で70億米ドル(1兆円)以上の財源を確保したとしている。食品パッケージにおいては、特に野菜と果実の提供のためのCVVの上限額が約2.5〜4.5倍と大幅に拡充された。そのほかにも、食習慣や文化に合わせてより健康的で多様な食品を利用できることを目的に、下記のような運用の改善が行われた。
- 全粒穀物の選択肢として、キヌア、ブルーコーンミールなどを対象に拡大
- 乳製品の中で、牛乳の代替となる食品(ヨーグルト、チーズ、豆腐などが該当)について、これまで大きな容量でしか提供できなかったパッケージサイズを柔軟化するとともに、乳糖を除去した牛乳、植物性のヨーグルト・チーズなどを認めるなど、利便性を向上
- 魚の缶詰を提供できる区分を拡大し、入手可能となる参加者が増加
- 乾燥豆に加え缶詰の豆の提供できるよう、州政府に対して義務付け
- 個々の母親の育児方針を支援するため、混合栄養(母乳と粉ミルクを併用した育児)における粉ミルクの提供量を柔軟化
一方、一部の参加者は、購入できる乳製品の上限数量が削減された(下記表参考)。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年3月末TTS相場。
3 業界の反応
今回のWICの改正について、栄養、福祉、食品流通分野などの関係者からは、プログラムに参加する女性、乳幼児へプラスの影響をもたらすとして肯定的な反応が出されている。また、酪農・乳業関係団体であるNMPF(全米生乳生産者連合会)およびIDFA(国際酪農食品協会)は、運用の改善により乳糖を除去した牛乳が対象とされ、幅広いパッケージサイズの製品と交換できるよう柔軟性を設けたことで、栄養価の高い乳製品にWIC参加者が簡単にアクセスできるようになったことを高く評価した。一方で、乳製品の上限数量の削減については、乳製品を通じた栄養素が減少することから今般の改正には失望したとし、懸念を表明した。
【中島 勝紘 令和6年4月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4383