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西オーストラリア州の干ばつが深刻化、州政府は乾季タスクフォースを設置(豪州)

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 豪州の西オーストラリア(WA)州政府は4月15日、同州の干ばつ被害の拡大を懸念し、2024年乾季タスクフォース(以下「タスクフォース」という)の設置を発表した。このタスクフォースは、気候変動により、今後さらに常態化が想定される乾季の課題に対して、農業界と政府が情報を共有し、両者が協力して農業ビジネスや農村コミュニティを支援する方法の特定を目的としている。WA州のジャービス農業・食料・林業・中小企業担当大臣は、「今年の秋は、すでに州の大部分で例年より暑く乾燥しており、昨年の春から雨が降っていない地域もある中で、特に畜産と園芸の生産者は打撃を受けている。気候変動の影響で厳しい環境が常態化しており、これらの課題解決に向けた取組は必要不可欠である」と設置の必要性を強調している。

1 乾季の影響と見通し

 豪州飼料産業協会(AFIA)の報告によると、WA州南西部は乾燥により牧草地を利用できないことから、畜産農家は購入飼料に頼らざるを得ず、生産コストの上昇で畜産経営は苦しい状況にあるとされている(図1)。
図1:WA州南西部の牧草販売価格の推移
 豪州気象局(BОМ)によると、2023年は豪州南西部にとって、19年以来の最も降水量が少ない年となり、24年に入っても乾燥が続いている(図2)。今後の天候見通しについてBOMは、4月16日にエルニーニョの終息を宣言しており、エルニーニョ南方振動(ENSО)(注1)は少なくとも7月までは中立を維持し、平年どおりの気候となる可能性が高いとしている。一方、主に秋から初夏(5月〜12月)にかけて豪州西部と南部を中心に干ばつを引き起こす「インド洋ダイポールモード現象(IOD)(注2)」は、発生には至っていないものの、正のIODを示す兆候があり注視が必要な状況としている。

(注1)地球規模の気候変動要因の一つで、熱帯太平洋の海洋-大気システムの周期的な変化を指す。その振れ幅の両端がエルニーニョ/ラニーニャ現象であり、海洋と大気の各指標によって、ENSOの状態が評価される。
(注2)「畜産の情報」2023年7月号「豪州における近年の飼料穀物需給動向と見通し」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002811.html)をご参照ください。
図2:直近12ヵ月間の降雨不足の状況

2 現地の反応

 WA州最大の農業団体であるWA農業者連盟は4月17日、干ばつが深刻化する中、州や連邦政府による支援の強化を求めるため、危機管理会議と称した大規模集会を開催した。その中では、「著しい飼料不足による動物福祉への懸念が高まっている。農家は昨年11月頃からこの事態が近づいていることを分かっていたが、州政府の対応は後手に回っており、タスクフォースは機能しないだろう」と非難の声が多く上がった。また、WA州産乾草の州外・国外輸出の一時停止や給水補助金制度の再開、冷凍肉輸出拡大を目的とした中東カタール航空のWA州への増便といった州政府に対する要求が決議された。これを受けて同州のジャービス担当相は、「これから始まるタスクフォースの会合で、農家の懸念を受け止める」と述べている。
【渡部卓人 令和6年4月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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