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ニュージーランド政府、資源管理法改正案の概要を発表(NZ)

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 ニュージーランド(NZ)政府は4月23日、5月に提出を予定している資源管理法(RMA:The Resource Management Act)改正案の概要を発表した。NZの現政権(国民党・ACT党・NZファースト党の連立与党)は資源管理法の改革を公約として掲げ、昨年12月には、その第一段階として、前政権(第6次労働党政権)がRМAに代わる新たな法律として制定した、自然・建設環境法(NBA:The Natural and Built Environment Act)と空間計画法(SPA:The Spatial Planning Act)(注1)を廃止していた。今回の改正案の提出は第二段階と位置付けられており、発表された内容は、冬季放牧規制の廃止など、規制負担の軽減に力点が置かれている。現地報道によると、業界団体はおおむね好意的な反応を示しているとされる。

(注1)2023年8月にNBAとSPAが施行された際、RМAは両法律に基づく資源管理に順次移行していくことを前提に改正されている。最大10年の移行期間が設けられており、廃止された昨年12月時点では、RМAに基づく制度や意思決定プロセスの大部分が維持されていた。

1 RМAの改正をめぐる経緯

 1991年に制定されたRМA(注2)は、土地、大気、水などの自然・物理的資源の持続可能な管理の促進を目的とした、環境全般に関する主要な法律とされている。同法では、「持続可能な管理」という包括的な目的の下、3つの原則(図)に基づいた資源開発をすることとなっている。これらは多くの政策、基準、計画、意思決定に関与することもあり、さまざまな場面で批判を受けながら、所要の修正が図られてきた。

(注2)「畜産の情報」2019年8月号「ニュージーランドの酪農業界における環境問題への取り組み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000696.html)もご参照ください。
図:資源管理法(RMA)の目的と原則
 2020年、淡水や沿岸、海洋環境の悪化や気候変動への対応などの社会的要請を受け、NZの資源管理システムに関する包括的な独立レビューが実施された。通称「ランダーソン報告書」と呼ばれるその報告書では、いくつかの提言がなされているが、その主要なものは、RМAの廃止と新たな法律への置き換えとされた。このため、前政権は報告書の提言に従い、2023年8月にRMAに代わる法律として、NBAとSPAを制定した。制度の主な変更点としては、RMA制度に基づく100以上の地域・地区計画を廃止し、NBAに基づく国家計画フレームワーク(NPF:National Planning Framework)の枠組みの下で、地域レベルで16の計画にまとめることにより、プロセスの簡素化が図られるというものであった。しかし、野党は中央集権化と官僚主義を助長すること、また、RMAプロセスに関連する煩雑さの問題が改善されていないことなどを理由に、懸念を表明していた。
 
 2023年10月、新たに与党となった現政権は、資源管理改革に段階的なアプローチを取ることを約束し、その第一段階として、同年12月にNBAとSPAを廃止した。続いて第二段階として、政府に適格性があると認められたプロジェクトに限り、迅速承認制度を活用できる迅速承認法案(Fast-track Approvals Bill)を2024年3月に議会に提出し、また、RМAの改正案を同年5月に提出する予定としている。今後、最終的な改革の第三段階として、RМAを新しい法律に置き換えることを目指すとしている。

2 RМA改正案の概要

 本改正案には次の5つの変更点がある。
 
(1)淡水管理に関する国家政策声明(National Policy Statement for Freshwater Management、以下「NPS-FМ」という)(注3)の代替措置
NZ政府は、RMAの改正と並行してNPS-FМの見直しを進めており、それまでの間は、資源開発許可申請の際に現行のNPS-FМの規定を遵守していることの証明を不要とする。
 
(注3)RМAの下、2011年に制定された淡水管理に関する国家指針の一つ。淡水管理における6つの原則や優先すべき義務の階層(第一:水環境及び生態系の健康と福祉、第二:地域住民・社会の健康と福祉、第三:その他の健康と福祉)を定めており、14年、17年、20年にそれぞれ改正されている。

(2)低傾斜地における家畜排除規則の改正
RMAに基づき、2020年に施行された家畜排除に関する規則(注4)について、低傾斜地で集約放牧(注5)されていない肉牛と鹿については、排除規制の対象外となる。
 
(注4)淡水管理の観点から家畜(羊を除く)を湖、川幅1メートル以上の河川、特定の湿地から3メートル以上遠ざけることを義務付けている規則。家畜を遠ざけるためにはフェンスの設置などが必要となるため、当該規則は2025年半ばまでに段階的に導入される予定となっている。
(注5)放牧地の内部をいくつかに区分し、短期間で区画を順番に移動することにより、短草状態で栄養価の高い牧草を効率的に供給し、生産性を高める放牧方法

 
(3)冬季放牧規制の廃止
RMAに基づき、2020年に施行された淡水の国家環境基準に関する規則(National Environmental Standards for Freshwater、以下「NES-F」という)(注6)で定められている集約的な冬季放牧(注7)の規制について、全面的に廃止し、将来的には淡水農場計画に関する規則(FFP:Freshwater Farm Plans)に基づく包括的なアプローチで冬季放牧のリスク管理を行うとしている。
 
(注6)淡水のさらなる劣化を防ぐことを目的として、湿地の保護に関する基準や冬季の集約放牧や窒素性肥料の大量使用など、リスクの高い慣行を規制する措置が定められている規則。
(注7)5月1日から9月30日までの期間(冬季)の任意の時点で、単年性の飼料作物(飼料用ケールなど)の耕作地で放牧を行うこと。

 
(4)石炭採掘における開発許可の承認プロセスの緩和
石炭採掘については、気候変動対応の関係から追加的な規制措置が取られていたが、今般の改正によりNPS-FМ、NES-F、2023年に施行された生物多様性に関する国家政策声明(National Policy Statement for Indigenous Biodiversity、以下「NPS-IB」という)(注8)に基づく他の鉱石の採掘活動と同様の承認プロセスに移行する。
 
(注8)生物多様性の減少に対応するため、重要な自然地域の指定や地域協議会ごとに固有の生物多様性の優先事項を定めた地域生物多様性戦略の策定を義務付けている規則。
 
(5)NPS-IB要件に基づく義務の一時停止
各地域の協議会がNPS-IB要件に基づき、地区内の土地が重要な自然地域(SNA:Significant Natural Areas)(注9)に該当するか否かを評価する義務が3年間停止される。
 
(注9)重要な固有の動植物の生息地として、NPS-IBに基づき指定される地域を指す。地域として指定された場合は、その地域の特性に合わせた管理計画を策定する必要がある。

 今回の改正について、農業関係団体からは、家畜排除規則の改正や冬季放牧規制の廃止を念頭に、不必要な規制や農場におけるコンプライアンスの遵守により、多大なコストに直面していた農家にとって安心材料になるとして、歓迎の意を示している。また、ニュージーランド農民連盟(Federation Farmers of New Zealand)は、今回の改正案を評価しつつ、「農家は煩雑なRМAの改革を長年切望してきたが、まだ多くの問題が残っている。早急にRМAに基づくコスト負担と煩雑さを軽減し、地域の民主主義を強化するような代替案の作成に取り掛かるべき」と提言している。一方、野党や環境保護団体からは、今回の改正案は環境保護より短期的な利益を優先しており、これまでの取り組みを後退させるものだと批判が相次いでいる。
【渡部卓人 令和6年5月1日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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