乳牛でのHPAI感染エリアが拡大、当局は各種対策を実施(米国)
米国における乳牛への高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の感染(注)については、5月9日時点で9つの州に拡大している。その要因として乳牛間での感染が考えられるとして、米国農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)は新たに泌乳中の乳牛が州をまたいで移動する際に遺伝子検査の実施などを義務付けた。これに加えてUSDA/APHISおよび米国疾病予防管理センター(CDC)は、生産現場でのバイオセキュリティの強化および個人防護具の使用に関する推奨事項を公表するなど、農場へのウイルスの侵入防止、乳牛間での感染拡大の防止に加え、農場従業員や獣医療関係者などへの感染の防止を図っている。なお、肉牛への感染は引き続き確認されておらず、ヒトへの感染事例も4月1日を最後に報告はなく、一般的な公衆衛生上のリスクは低いとされている。
(注)「【海外情報】乳牛への鳥インフルエンザの感染事例が確認、公衆へのリスクは低い(米国)(令和6年4月12日発)」も併せて参照ください。
1 米国における乳牛でのHPAI感染確認状況
USDA/APHISによると、乳牛でのHPAI感染は、3月末のテキサス州およびカンザス州の酪農場で確認されて以降、5月9日までに9つの州で合計42件確認されている。これまでのところ、家きんでのHPAI感染とは異なり、感染した乳牛はおおむね7〜10日間で回復し、致死性はほとんどないとされている。そのため、乳牛での感染が確認された場合でも、農場全体での乳牛の殺処分は実施しておらず、他の家畜からの隔離などが実施されている。
2 牛乳および牛肉に対する検査結果の概要
米国食品医薬品局(FDA)は4月25日、市場に流通する牛乳を抽出し遺伝子検査(PCR検査)の結果、約5分の1の割合でHPAIウイルス遺伝子陽性と判定されたことを公表した。その後、5月1日までに発育鶏卵を用いたウイルス分離検査(感染性のある生きたウイルスが存在するか確認する検査)の結果では、すべて陰性であったことを公表した。同様に、牛乳を原料とする乳製品からも生きたウイルスは検出されなかった。このことから、加熱殺菌を経た牛乳・乳製品は、ウイルスが不活化されるため安全であることが改めて確認された。FDAおよび全米生乳生産者連盟(NMPF)は、市場に流通する牛乳・乳製品については安全であり健康への影響はないことを発信している。
また、USDA/食品安全検査局(FSIS)は5月1日、牛肉についても安全性を確認するため、乳牛でのHPAI感染が報告された州を対象に、市場に流通する牛ひき肉について検査を実施し、すべて陰性であったと公表した。肉牛についてはこれまでのところHPAIの感染は報告されていないが、コロンビアは乳牛でのHPAI感染が確認された米国の州からの牛肉の輸入を一時停止している。なお、USDAは、と畜場で全身性の病変により廃棄される経産牛のと体の検査などを引き続き実施することとしている。
3 検査結果を踏まえた米国政府の対応
市場に流通している牛乳・乳製品や牛肉の検査によって、食品を通じた一般的な公衆衛生上のリスクは低いことが改めて確認された。一方でUSDAは、遺伝子解析の結果などから乳牛間での感染が考えられるとしている。そのため、4月29日から泌乳中の乳牛が州をまたいで移動する際に遺伝子検査などの実施を義務付けた(泌乳中の乳牛が直接と畜場へ出荷される場合は除かれる)。また、農場におけるバイオセキュリティ強化として、適切な消毒の実施や野生動物対策などにより、農場へのウイルス侵入防止、乳牛への感染防止および乳牛間での感染防止を図っている。
さらにCDCは、HPAIに感染した鳥や動物ならびに汚染された環境に長期間または無防備にさらされたりした場合は、感染のリスクが高くなるとし、農場従業員や獣医療関係者などへの感染防止を図るため、個人防護具の使用に関する推奨事項を公表し、農場従業員への個人防護具の提供を州政府に対して要請した。なお、4月1日に公表されたヒトへのHPAI感染事例については既に回復したとしており、それ以降新たな人への感染事例の報告はない。
【中島 勝紘 令和6年5月10日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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