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気候変動への適応を中心とした2024/25年度予算案を発表(豪州)

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 豪州連邦政府は2024年5月14日、2024/25年度(24年7月〜25年6月)の予算案を発表した。現政権(労働党)の予算案は今回で3度目となる。
 農林水産関連では、今後8年間で7億8900万豪ドル(828億円:1豪ドル=104.96円(注1))の予算が計上され、このうち干ばつへの対策として、3分の2以上となる5億7520万豪ドル(604億円)が割り当てられている(表)。主に未来干ばつ基金(FDF:Future Drought Fund)(注2)を通じた気候変動に対するレジリエンス(強靭性(きょうじんせい)、回復力)の強化が大きな柱となっており、地域主導の気候変動リスク管理の推進や生産者・地域社会との知識共有の機会の創出、干ばつや気候変動リスクに対する革新的な解決策の開発などに取り組むとしている。

(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年4月末TTS相場。

(注2)2019年に未来干ばつ基金法(FDFA:Future Drought Fund Act)の基で設立された基金。現在、諮問委員会が作成した資金計画(第1フェーズ(20〜24年))に基づき、さまざまなプログラムに資金が提供されており、本年2月には予算使途の指針となる新たな資金計画(第2フェーズ(25〜28年))が公表されている。
 この他の主な予算としては、(1)パリ協定に基づくネットゼロ(注3)の実現に向けた農業者の排出削減努力への支援に関する予算として6380万豪ドル(67億円)、(2)生体羊の海上輸送の段階的禁止という公約を実現するため、生体輸送から食肉加工への移行や羊肉製品の付加価値向上などの取り組みに1億700万豪ドル(112億円)、(3)新たに建設されているウエスタン・シドニー国際空港のバイオセキュリティ体制の整備に1690万豪ドル(18億円)、(4)国際貿易の強化およびビジネスにおけるデジタル情報の共有体制を改善させるための「デジタルトレードアクセラレータプログラム」の実施に360万豪ドル(4億円)、(5)農業部門の労働力確保を支援するため、「AgCAREERSTARTプログラム」(注4)の継続支援などの取り組みに190万ドル(2億円)、(6)植物性代替たんぱく質の表示基準の改善と消費者の意識調査に150万ドル(2億円)―などが措置されている。
 この他にも、農林水産省(DAFF)所管外の関連予算として、ソーラーパネル製造への支援や地方道路の整備などのインフラ支援、低炭素液体燃料の生産支援などが計上されている。

(注3)温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにすること。豪州では2030年までにGHG排出量を05年比で43%削減、50年にはネットゼロを目指す目標が掲げられている。

(注4)豪州で就労資格を持つ17〜25歳の若者が参加可能なギャップイヤープログラム。有給で農場勤務を体験することで、若者が農業のキャリアを試行する機会を提供し、農業部門への就労を促進することを目的としている。
表 2024/25年度の主な豪州農業関連予算(今後10年間で実施)
 連邦政府は、本年度予算案に盛り込まれた措置により、農林水産業部門が干ばつを含む気候変動の影響に適応し、継続的に維持・成長し続けることが可能となる政策が、計画的に実施されるとしている。これに対し、農業団体である全国農業者連盟(NFF)は、干ばつ対策はFDFに積まれていた資金が主であり、新しい予算といえるのは4220万豪ドル(44億円)分しかないと指摘し、最大の支出である生体羊の海上輸送の段階的禁止は、現場のニーズに沿っておらず予算の規模も不十分で全く評価できないとした。一方で、農業におけるGHG排出削減努力への資金提供を歓迎するとしており、気候変動と再生可能エネルギーに関する新たな取り組みについては、賛成する声が上がっている。
【渡部卓人 令和6年5月16日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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