畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2024年 > 豪州政府、2028年5月から生体羊の海上輸出を禁止に(豪州)

豪州政府、2028年5月から生体羊の海上輸出を禁止に(豪州)

印刷ページ
 豪州連邦政府のマレー・ワット農林水産大臣は5月11日、豪州からの生体羊の海上輸送を2028年5月に禁止するとして、海上輸送の段階的な縮小に向けた法律を今国会に提出することを発表した。また、併せて業界に対し、生体羊の海上輸送禁止への移行を支援するための1億700万豪ドル(112億円:1豪ドル=104.96円(注1))の支援パッケージを発表した。
 本発表によると、この決定は、現政権(労働党)の公約の履行であるとともに、羊産業のサプライチェーンの強化、市場機会の開拓、動物福祉の向上に向けた包括的な支援の表明であり、羊産業が将来に渡って発展していくためのものとしている。
 この動きに対して、豪州の王立動物虐待防止協会(RSPCA:Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)などは、動物福祉の向上に大きく寄与するとして評価している。一方で、多くの関連業界団体は、事前の説明不足や不適切な支援規模を批判するとともに、生体牛輸出への影響について懸念を表している。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年4月末TTS相場。

1 輸出禁止までの経緯

 現政権は、2017年に起きた海上輸送中の大規模な羊の死亡事故(注2)などを受けて、生体羊の海上輸送を段階的に禁止することを公約に掲げてきた。23年3月には公約の実現に向けた協議の場として独立委員会(注3)が立ち上げられ、その中で農家、家畜輸出業者、動物愛護団体など、さまざまなステークホルダーとの議論が重ねられており、今回の発表と同じタイミングで独立委員会の報告書が公表された(報告書自体は23年10月に連邦政府に提出されていた)。
 
(注2)中東への羊の輸出貿易で最大のシェア(市場占有率)を誇っていたエマニュエル社が運航していたアワシ・エクスプレス号内で、2400頭の羊が暑熱ストレスなどで死亡した事故。
(注3)マレー・ワット農林水産大臣が、生体羊の海上輸送を段階的に縮小する方法と時期について協議するために設置した委員会。段階的な縮小による影響や実施までの期間と選択肢、適切な移行支援の方法などについて検討を付託されていた。

 
 本報告書では、生体羊の輸出は西オーストラリア(WA)州の羊産業の重要な収益であるものの、その輸出量はこの20年間で減少し続けており、すでに羊肉輸出への切り替えは進んでいる(図)。そのような中で、政府が早期に取り組むべき28の勧告が示されており、これらを達成することにより、生体羊輸出禁止による経済的・社会的影響を緩和し、持続可能で収益性の高い羊産業への移行が図られるとしている(表)。
図 羊肉輸出額と生体羊の海上輸送額の推移
表 独立委員会報告書における28の勧告

2 現地の反応

 現地報道によると、農家や農業団体はこの発表を非難する声明やソーシャルメディアへの投稿、プレスリリースを相次いで出しているとされている。
食肉業界の政策決定機関であるレッドミート(注4)諮問委員会(RMAC:Red Meat Advisory Council)のジョン・マキロップ委員長は、「科学的な証拠に基づく議論が一つもないにも関わらず、この計画は進められており、移行パッケージは、生体羊の輸出が広範なサプライチェーンとWA州経済への影響を完全に無視していると痛烈に批判している。
 また、肉用牛生産者の業界団体であるキャトル・オーストラリア(CA:Cattle Australia)のクリス・パーカーCEO(最高経営責任者)は、「羊の輸出業者はこれまで動物福祉の世界的なリーダーであることを何度も実証してきたにもかかわらず、この発表は農業の現場と政府の乖離を象徴しており、生体牛輸出業界にも大きな懸念を抱かせるものである」と懸念を表明している。

(注4)一般的に牛肉、羊肉など赤色(ミオグロビン)を多く含む家畜の肉を指す。これに対し、赤色の少ない鶏肉などはホワイトミートと呼ばれる。
 
(渡部卓人 令和6年5月20日発)
【渡部卓人 令和6年5月20日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9532